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【第55回日薬学術大会】人との結びつき築く大会に‐大会運営委員長 山田 卓郎氏(宮城県薬剤師会会長)に聞く

2022年10月03日 (月)

第55回日本薬剤師会学術大会

山田卓郎氏

 第55回日本薬剤師会学術大会が「結(ゆい)―地域と共に未来へ」をテーマに9~10日の両日、仙台市の仙台国際センターで開催される。2年ぶりに現地開催とウェブ開催のハイブリッド形式で実施される。大会運営委員長の山田卓郎氏(宮城県薬剤師会会長)は、「災害が人と人を結びつけてくれた。コロナでも地域住民との距離感が縮まっている。2年ぶりのリアル開催となる学術大会が全国の薬剤師にとって貴重な交流の場になるようにしたい」と語る。山田氏にテーマに込めた思いや分科会の企画意図について聞いた。

大震災からの復興が主軸‐地域に根付いた活動必須

 ――開催までどのような準備をしてきたか。

 昨年8月に学術大会の実行委員会を立ち上げた。東日本大震災が発生した2011年の日薬大会開催地であったためその際に準備していた内容に沿った形でチームを構成し、準備を進めた。どのようなコンセプトで開催するか検討した結果、11年前の学術大会でできなかった東日本大震災からの復興をメインに据え、現地を見てもらうような学術大会にしたいと考えた。当時6000人近い薬剤師が宮城に支援しにきていただいていたので、支援いただいた薬剤師には復興を遂げている宮城の姿を見ていただきたいという思いが強い。

 ――テーマ「結」に込めた思いは。

 東日本大震災の経験から災害が人と人を結びつけてくれたという意味で、「結―地域と共に未来へ」をテーマとした。東日本大震災が起こる前は、災害時の医療救護活動に薬剤師がチームとして入っていなかったが、震災で薬剤師が活躍できたことで災害医療チームのメンバーとして加わることが見直された。

 震災によって患者に使われた医薬品データが全て消失し、避難所での医薬品供給も混乱していた。後発品の普及もちょうど始まった頃で、一般名ではない後発品は判別がつかず、同じ銘柄の後発品がない場合に別銘柄の後発品にするのか、先発品に変更すればいいのかが分からず医師も悩んでいた。後発品を活用できる薬剤師が災害医療のメンバーに加わったことで、負担が軽減されたとの感謝の声をいただいた。

 19年の東日本台風による豪雨で丸森地区が大きな被害を受けたが、既に他団体と顔が見える関係が構築されており、医薬品の配置や供給については薬剤師会に任せてもらえるようになった。現在では災害以外でも連携した活動が行えるようになった。

 地域医療で行政や他団体との関係性は一朝一夕に作り上げられるものではないと思っている。災害を経験していない都道府県からはどのような心構えで災害対策を進めるべきかと相談を受けるが、地域医療で関係する人たちと日頃から連携していくことの重要性を申し上げたい。

 震災では県外からの支援薬剤師に支えられたが、県外から来た薬剤師は地域によっては派遣が難しい場合もある。薬剤師は地域住民の顔も分かっているし、地域に根付いて活動をしている薬剤師が必要不可欠となる。

 ――コロナで人と人の結びつきの重要性が認識されている。2年ぶりのリアル開催の意義は。

 2年ぶりに現地で開催できるのは喜ばしいことだ。感染対策を取っていれば心配なく開催できるとの助言をいただいている。なるべく参加者が密にならないよう工夫して実施していく。

 ハイブリッド方式による開催であるため、感染に対する不安をお持ちの方はウェブから参加してもらうことも可能となっている。ただ、もし可能であるならば、年に1回学術大会で全国の薬剤師が集まるという場があり、テーマにあるように人と人の結びつきを築いてほしいという思いはある。

 ――分科会は昨年から二つ少ない20テーマとなった。

 当初から分科会の数を減らすとの考えは出ていた。分科会の数が多いことによるメリットはあるのかもしれないが、内容に重複が生じてしまっている可能性もあり、一つひとつのテーマに集約させていくことが望ましいと考えた。

 分科会のテーマについては、16年に策定された「患者のための薬局ビジョン」を踏まえ、地域の中で求められている薬局薬剤師の将来像を示す必要があると考えた。県薬理事に薬剤師が興味を持っていることや課題などテーマを募集した後、分科会チームでテーマを決定した。

 選ばれたテーマを見ると、医療DXや地域包括ケア対応などを意識した分科会のテーマになっていると思う。私が座長を務める分科会15「災害時の薬剤師の役割」は自ら志願し、通常は2時間の枠を3時間に延長した。そのほか、新型コロナウイルスに関連した話題や認定薬局制度、後発品の供給問題、AMR対応なども取り扱っている。

 ――コロナ禍を経て薬剤師の重要性が高まっている。

 薬剤師と地域住民の距離感が少し近くなっているように感じる。OTC医薬品の販売だけではなく、それ以外の業務でも接点が増えている。ワクチン接種における薬剤師支援業務では、ワクチンの調製のみならず、問診で地域住民とやり取りをするようになった。抗原検査キットの販売や無料検査などの実施により、薬局が身近な存在と捉えられるようになっている。地域住民のためにしっかりと医薬品や検査キットの供給を担えるようにしないといけない。

 コロナ禍で学校薬剤師の活動にも注目が集まっており、薬局薬剤師も地域の中で必要とされていると感じられるようになっているのではないか。

 昨年8月にスタートした認定薬局制度だが、届出薬局の数についてはそこまで意識はしていない。地域に必要とされている薬局に育ってもらうことが重要となる。制度がスタートしたばかりなので今後の検討課題になるのではないか。分科会でも課題や今後の展望などを聞くことができるのではないか。

 ――医療DXについて。

 医療DXも重要なテーマとなる。宮城県では震災後にみやぎ医療福祉情報ネットワークという独自システムを作り、クラウドで情報を共有し、災害時に患者情報を利用して診療できる仕組みを構築している。

 今後はICTによる情報共有システムを有効に活用していかなければならない。来年1月に運用が始まる電子処方箋システムもオンライン資格確認システムの基盤がないとサービスを提供できない。医療分野でICTを活用することの意義など情報提供を行い、普及を図っていく必要がある。

交流機会の意義大きく‐目標来場人数は8000人

 ――学術大会の意義は。

 薬剤師の自己研鑽は非常に重要であり、若い薬剤師には貴重な発表の場になる。個人的には自己研鑽よりも様々な人たちとの交流機会として意義が大きいと感じている。

 薬剤師に対人業務の充実が求められる中、人とコミュニケーションを取る機会が減っているのが気になっている。調剤に必要な知識だけを詰め込むのではなく、患者さんとの接し方も含めコミュニケーション能力を身に付けておく必要がなる。

 学術大会では同世代の薬剤師がどんな取り組みをしているのかも見ていただきたい。積極的に交流して、人とのつながりや結びつきを大切にしてほしい。

 そのほか、東日本大震災のパネル展示や物産展も入れる計画をしている。

 時間に余裕があれば、復興途上にある石巻地域や女川地域を見ていただきたい。当初、石巻地域を分散会場にして災害対応に関する分科会を組む計画だったが、コロナの感染状況やスケジュールの関係で断念した。両地域では復興が進んでいるところもあれば、震災当時からあまり変わっていない部分もある。

 ――目標来場者数は。

 8000人を計画している。8月末時点では5000人を超える人数の事前登録がある。現地参加が5500人、ウェブ参加が2500人を予定している。



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