新型コロナウイルス感染症の経口治療薬として、大きな期待のもと話題となってきた「イベルメクチン」「アビガン」の臨床試験結果がようやく出揃った。イベルメクチンの企業治験を実施していた興和は9月26日、第III相試験で主要評価項目を達成できなかったと発表した。その4日後には、2020年8月からイベルメクチンの医師主導治験を実施していた北里大学も、主要評価項目を達成できなかったと発表した。興和の発表後、医師主導治験も失敗に終わったことで、イベルメクチンをめぐる騒動は決着した。
インターネット上で様々な真偽不明な情報が飛び交う中、しっかりとした臨床試験を実施し、科学的なデータを示したことには大きな意義があったと言えるだろう。
今月14日には、富士フイルム富山化学が新型コロナウイルス感染症を対象としたアビガンの開発を中止したと発表した。
アビガンをめぐっては、政治主導で前のめりな承認に動いた時期があったが、20年12月に承認の可否は継続審議となり、昨年には新たな第III相試験を実施していたが、有効性を示すデータが得られず開発中止を決断した。
イベルメクチンとアビガンについては、科学的に「新型コロナウイルス感染症に有効性を示さず」との結論が出たことになる。ネガティブデータではあったが、第III相試験データを社会に公表し、科学的に決着を見たことは正しい方向であった。
一方で、塩野義製薬の「ゾコーバ」も紆余曲折の連続である。6月に開かれた薬事・食品衛生審議会では国内第IIb相試験の有効性評価で意見が分かれ、緊急承認の可否判断が先送りされた。7月の薬食審合同会議では緊急承認制度が適用される「有効性の推定」の条件を満たせないと判断され、全会一致で継続審議と決定。第III相試験の結果待ちとなっていた。
この間、日本感染症学会と日本化学療法学会が公表した提言がゾコーバの緊急承認を求めるものとして批判を浴びたが、9月28日には塩野義が第II/III相試験の最終段階で主要評価項目を達成したと発表。追い込まれた土壇場で有効性データが示された。軽症・中等症患者を対象に、オミクロン株流行期に特徴的な鼻水、喉の痛み、発熱、倦怠感などの症状消失までにかかる時間をプラセボ群と比べて約24時間短縮し、有意な症状改善効果が確認されたというものだ。
いずれにしても、国産経口薬の臨床試験結果は、イベルメクチン、アビガンは失敗、ゾコーバは土俵際で踏みとどまった段階にある。現在、ゾコーバは厚生労働省と承認審査や審議について協議を進めているとされるが、約1日症状の改善が早くなるという有効性を当局がどう判断するかが焦点になる。国産経口コロナ薬の初めて正式承認は、重大な岐路に立っている。