2006年度から始まった薬学教育6年制が、完成年度を迎えている。6年制となって初めての卒業生を送り出す来春は、一つの節目になる。薬学教育6年制をよりよい形にしていくために、今後どこをどう改善すべきか。関係者はそれぞれ考えを深めていることだろう。
改善すべきことの一つに、実務家教員のあり方がある。実務家教員が今よりももっと、病院や薬局などの医療現場で日常的に薬剤師として業務を行えるようにする必要があるのではないか。
現状はどうか。文部科学省の委託事業の一環として、関西の薬系大学教員らが中心になって実施した「新制度薬学教育における実務家教員のキャリヤー支援の方策の確立に関する調査・研究」の報告書が、今春まとまった。
そこには、全国の実務家教員のうち286人から回答を得たアンケート結果が載っている。
その結果によると、病院や薬局で実務に関わる機会を持っている実務家教員の割合は50%だった。一方、90%以上の実務家教員が、こうした機会が必要と考えていた。大多数が必要性を感じながら、半数がその機会を持っていないことが明らかになった。
医療現場に行きたいけれど行けない――。それが現実だ。なぜ行けないのか。アンケートで実務家教員は「大学における業務体制」「大学の研修などを推進する体制」などを問題点として挙げている。大学の業務に時間をとられ、忙し過ぎて時間的余裕がなかったり、大学側がその必要性を認識していなかったりするのが実態のようだ。
それでは、医療現場に出向く機会を作り、また増やすために何が必要なのか。「大学側の研修体制の整備」「精神的・肉体的負担の軽減」などが必要――。全国の実務家教員はそう回答している。
新薬の登場など医療の変化は激しく、現場から離れて数年も経てば「過去の人」になってしまうという危惧をよく耳にする。実務家教員を、そんな存在にしてしまってはいけない。
医療現場で業務に関わる機会を設けることは、実務家教員の実務能力を維持し、教育に反映させることだけが目的ではない。6年間の学部教育や、その上の大学院教育において重要な、薬学の臨床研究を発展させるためにも、実務家教員が医療現場に出向き、連携を強化することが必要になってくると思われる。新たな薬学の柱の一つとして今後、臨床研究の強化に力を注ぐべきだろう。
まずは、こうした認識を大学内で共有化する。その上で、▽実務家教員の増員▽学内の各教員における業務負担の再配分▽学内外の体制整備――などを進める必要がある。
薬学教育6年制をさらに発展させ、また個々の薬系大学が勝ち残っていくためにも、これらの手だては今後、避けて通れないのではないか。