明治薬科大学と名古屋大学、静岡大学、千葉大学の研究グループは、帝京科学大学、コンフレックス、分子科学研究所との共同研究で、医療や環境分野での活用が期待される次世代機能性材料「超分子ゲル」がどのように作られるのか、その過程をナノメートルのスケールで「動画」として捉えることを世界で初めて成功し、超分子ゲルの形成メカニズムを解明した。超分子ゲルは薬物送達システムや人工組織材料、汚染物質を取り除く環境材料など、様々な分野での活用が期待される。この成果は、「Nature Communications(電子版)」で4月22日に公開された。
超分子ゲルのこれまでの研究では、▽低分子ゲル化剤が非共有結合でつながり細い繊維(フィブリル)ができる▽そのフィブリルが束になってより太い繊維(ファイバー)になる▽そのファイバーが網のような構造を作り液体を内部に取り込むことでゲルになる――の段階で作られると考えられてきた。
しかし、フィブリルやファイバーのサイズは数ナノ~マイクロメートルと小さく、細かい構造がどうやってできていくのかをリアルタイムで観察することて非常に困難で、これらがどのように形成され、成長していくのか、詳しいメカニズムは分からなかった。超分子ゲルの性質はファイバーの性質に強く依存するため、メカニズムが明らかになれば、超分子ゲルの物性や機能の制御が可能となり、機能性材料の開発を推進することができる。
同研究グループは今回、高速原子間力顕微鏡を用い、超分子ゲルを構成するファイバーが成長していく過程を「動画」として観察することに成功した。観察の結果、これまで考えられてきたようなフィブリルは見られず、最初から太い超分子ファイバーが成長していく様子が見えた。さらに、ファイバーの成長は一気に進むのではなく、「伸びる→止まる→また伸びる」という動きを繰り返していることが分かった。
この動きについて同研究グループは、「ブロック―スタッキングモデル」という新しい理論を提案。この理論では、分子が積み木のように整列して繊維の先端に積み上がっていくことで、上向きにファイバーが成長していくと考えられた。そして、ファイバーの先端がデコボコしているときには、新たに結合してくる分子が、横に隣接している分子と非共有結合を作って安定化でき、くっつきやすいため、成長が進む。
一方で、ファイバーの先端が揃って平らになると、新しい分子が結合しにくくなるため、一時的に成長が止まると考えられた。同研究グループは、この仕組みに基づいたコンピュータシミュレーションを行い、観察で見られた「伸びる→止まる→また伸びる」という動きが再現できることを確認した。
さらに、このファイバーの形成が、最初どのように始まるかを検討した。ゲル化が起こる様子を詳細に画像解析することで、最初に少数個の分子からなる“核”ができるステップと、その核に他の分子が結合することでファーバーが成長するステップに分かれていることが明らかになった。そして、ゲル化時間を統計解析することで、その核が何個の分子から形成されているかまで推定することができた。これら一連の結果により、超分子ゲルを構成するファイバーが形成し、成長していく過程の全容が解明できた。
今回の研究は、これまで観察が難しく、詳しく分かっていなかった超分子ゲルの形成メカニズムの重要な課題にメスを入れたものとなった。この成果によって、超分子ゲルの研究が飛躍的に進展し、将来的には超分子ゲルの性質を自在に制御できるようになることが期待される。