TOPPANホールディングスは電子カルテデータをもとにした医療情報分析・提供サービス「DATuM IDEA」について、6月から主に製薬企業向けに電子カルテデータと医科レセプトデータを結合したサービスの提供を開始する。これまで分析可能だった患者の傷病・薬剤・検査などの時系列データに加え、手術や処置の実施履歴・コストデータなどが分かるようになることで、より正確な患者の診療実態の把握や費用対効果分析が可能となる。医科レセプトデータと電子カルテデータの強みを掛け合わせ、製薬企業の研究解析をさらに深化させたい考えだ。
同社は次世代医療基盤法に基づき「DATuM IDEA」を製薬企業やアカデミア、医療機関向けに提供している。匿名加工された電子カルテデータをもとに分析することで患者の治療に介入せずに実態を分析する特徴を生かし、製薬企業のデータベース研究を支援してきた。
6月には「DATuM IDEA」のデータベースに医科レセプトが加わった。医科レセプトデータは保険診療のもとで行われた医療に関して医療機関が発行する診療報酬明細書であり、患者情報や疾病名、請求点数、投薬内容などが記載されており、アウトカム情報となる検査値が記載されている電子カルテデータと組み合わせることで付加価値の高い分析が行える。
認定医療情報等取扱受託事業者との連携により国立病院機構など全国約60の医療機関から約151万人分の電子カルテデータおよび医科レセプトデータを受領。データ提供施設のうちおよそ半数は地域のがん拠点病院で、希少疾患や癌患者の治療データを多く保有し、製薬企業の医薬品開発ニーズにも対応している。

左から松浦氏、望月氏
電子カルテデータと医科レセプトデータを結合したサービスは次世代医療基盤法のもとで匿名化・標準化されることで実現される。同社事業開発本部ヘルスデータ事業推進センターの松浦繁センター長は「次世代医療基盤法に基づいてサービスを提供できるのは当社を含め数社しかない」と自信を見せる。
医療機関で薬剤師としての業務経験を有する同センターデータエンジニアの望月伸夫氏はこう語る。「医科レセプトデータは匿名化・標準化の観点で扱いやすく、多くの製薬企業がデータベース研究に使用してきたという歴史がある。一方電子カルテデータは実臨床に近いと考えられているが、データベースとして活用するためには名称や単位を揃えてデータを標準化するクレンジング作業を要す。TOPPANはすでに電子カルテをもとにしたデータベースを有しており、クレンジング作業のノウハウがある。次世代医療基盤法のもとで二つのデータを結合したことは、医科レセプトデータを活用していたこれまでの研究と親和性を持ちつつ、データベース研究に深みを持たせられると期待する」
電子カルテ連結で付加価値
医科レセプトデータを連結した「DATuM IDEA」の大きな特長は手術・処置の実施履歴の閲覧が可能になることだ。これまでの傷病・薬剤・検査などの情報に加え、手術や処置の実施履歴がより詳細に時系列で閲覧でき、治療経過や治療結果に及ぼす影響の分析が可能になるため、より正確な患者の治療実態を把握できるようになる。
また、コストデータの活用により医療技術の費用対効果分析も可能になる。医科レセプトデータには診療行為ごとの費用である診療報酬点数のコストデータが記載されており、コストデータの活用により、これまでの検査情報などを用いたアウトカム分析だけでなく、治療における費用と効果を考慮した費用対効果分析ができるようになる。

例えば、医科レセプトの「薬剤投与歴」「治療歴」「治療費」、電子カルテの「より詳細な薬剤投与量、用法」、「検査値の変動」といった複合的な情報を組み合わせて解析を行うことで、「治療による効果」「薬剤効果と治療費」などを評価できる。
費用対効果分析の具体的な活用イメージについて松浦氏は、バイオ先行品とバイオシミラーを例に「医療費と薬剤効果の面から比較が可能になる。今後、NDBと連結した場合には悉皆性の高い死亡情報によるエンドポイント評価ができるようになる」と期待感を示す。
一方、望月氏は手術後に抗癌剤を投与するアジュバント療法の効果分析を具体例に挙げる。「電子カルテデータの抗癌剤投与量・レジメン・臨床検査値などのアウトカム情報と、医科レセプトデータの処置歴・手術歴をつなげることにより、治療効果や有害事象への影響を分析できる」と提案する。
また、糖尿病が悪化し腎機能が低下した患者に行う人工透析は処置に該当するため、SS-MIX2標準規格由来の電子カルテデータのみでは人工透析が実施されたか判断が難しいが、医科レセプトデータを結合することで「糖尿病治療薬の投与によって人工透析をしなくて済むのか、腎臓病を抑制できるのかという予後を評価することも可能」との見方も示す。様々な研究解析に「DATuM IDEA」が活用されるよう訴求していく。
個人単位の健康情報集約へ
「DATuM IDEA」では今後、仮名加工医療情報を利活用した新たなサービスを計画する。連携する日本医師会医療情報管理機構(J-MIMO)が認定仮名加工医療情報作成事業者を取得しており、TOPPANも今年度中にI型認定での認定利用事業者を目指す。松浦氏は「今後は製薬企業の薬事申請や試験の代替にもリアルワールドデータの活用が可能になる。未承認薬の適応拡大を支援したい」と話す。今年下半期にはNDBとの連結解析の実効性を検証、さらには製造販売後データベースへの展開も計画する。
「DATuM IDEA」が目指す姿は、カルテデータからレセプトデータ、PHRデータや介護データ、健康検診データなど個人単位のヘルスデータをつないで実現する“情報の集約”にあり、電子カルテデータと医科レセプトデータの連結はその布石だ。効率的な創薬を支援し、健康寿命の延伸と持続可能な社会の実現に貢献していくための活動として、「DATuM IDEA」のウェブサイト内に「ファーマベース」というメディカル・ナレッジ・ベースを展開し、製薬企業の業務に活用してもらえる情報提供を行う。
「DATuM IDEA」のサービス提供でも、製薬企業のニーズを踏まえTOPPANが解析・レポートを行う「解析・レポートサービス」、製薬企業にデータを渡して製薬企業自身が解析を行う「データセット提供サービス」の二つを用意するが、データベース研究に慣れていない製薬企業も多いため、まずは解析・レポートサービスを通じた支援を強化する。
松浦氏は将来的なサービスのあり方について「データセット提供により製薬企業自身が解析を行えるよう支援し、高度な研究については解析・レポートサービスでTOPPANがサポートできるようにしたい」と話している。
TOPPANの医療情報分析・提供サービス「DATuM IDEA」
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