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不信を招く、財政重視の後発品促進策

2008年06月25日 (水)

 後発品使用促進策を強化した診療報酬・調剤報酬改定からもうすぐ3カ月。評価を下すには早いが、財政効果など数字面だけを目安に評価するのは避けたい。患者を含め後発品に対し、不安や戸惑いも少なくないからだ。いざ使用となれば、医療現場の問題もある。現場を無視した財政効果重視などの議論は、医師、薬剤師、患者など現場の相互不信を招きかねない。

 確かに使用促進策は、医療費抑制策の一環ではある。政府は、後発品の数量シェアを2012年度までに現行の倍増の30%以上にする目標を掲げる。削減できる医療費は5500億円程度という。

 それに対し、経済財政諮問会議の民間議員から、11年度までに40%に引き上げれば、8800億円程度まで削減可能との試算が示された。仏が2年で3倍もシェアを伸ばした例を挙げ、後発品がある医薬品は、後発品価格分のみ公的保険でみるという方式によるものと指摘し、制度改革を求めた。

 舛添要一厚生労働相は、後発品への不安や、薬が患者に合う合わないという問題もあるとし、そのような現場の実情も考慮しての政府目標だと反論した。舛添氏を支持したい。

 というのも、民間の調査や小紙の取材では、医療関係者、患者にも戸惑いがあることがうかがえるからだ。薬の銘柄が指定された処方せんに忠実に調剤している薬剤師にとって、今回、有効成分を軸に後発品か否かの選択ができる「替えられる処方せん」は戸惑いの一つ。一律に「不可」としてくる医師がいる一方で、一律に「不可」としない医師もいる。どこまで後発品でよいと吟味されているのかと考え込み、処方を疑っているようで医師にも聞けないでいたりする。

 患者に説明しても、慢性病を抱え長く薬をのみ続け、後発品による財政効果が高いとみられる特に高齢患者は、のみ慣れた薬を替えたがらない傾向があるという。仮に替えても、「替えられた」という意識が少なからず患者にあり、安いことや前の薬とは違うといったことが、効き目などに不安を生じさせる心理的な影響を心配する声もある。

 医師側も患者側も,原則後発品処方という4月の改定に慣れていない上、品質などへの不安もある。現場は後発品に対して手探り、というのが実感だ。

 「後発品不可」としない処方せんの場合、薬剤師は患者に後発品に関する説明をすることが義務づけられ、後発品調剤にも努めなければならないと療養担当規則で規定された。薬剤師は後発品使用促進のキーマンではあるが、医師,患者とも不慣れで、不安を抱えている中で、いくら薬剤師が説明しても、「後発品可」にならないこともあれば、先発品に戻ることもあろう。いくら薬剤師が頑張っても、薬剤費が期待通りに減らないことだってある。

 使用促進は、薬剤師だけでなく医師、患者との「協働」。それを可能にする行政、製薬企業・卸による周辺環境の整備があってこそだ。

 そんな現場を考えると、制度を変えれば進むといった議論、「後発医薬品調剤体制加算」の算定率の引き上げを目安にする議論は、乱暴だ。成果を出さなければ、ペナルティーを課す議論が起きるという焦りはあろうが、薬剤師と患者、医師との間で、どんなやりとりがなされるべきかという業務の質、職能を念頭に置いた議論が必要だと考える。そして、後発品は強制ではなく、選択肢の一つであることも確認しておきたい。



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