
左から小川氏、植松氏、安藤氏
日本CRO協会(JCROA)は以前から治験関連のデジタル化の対応を進めていたが、コロナ禍によってさらに各種の電磁化が加速してきた。JCROAでは主体的にe-TMF(治験関連文書)、リモートモニタリングなどの各課題に向けた活動を展開しており、日本における治験の効率化を図って医薬品開発に貢献するスタンスを堅持していく。押印も含めた紙からデジタルへの流れを受け、CROが率先して変化に対応し、他団体と情報交換・共有しつつ効率化を進めていくことはCROの責務との認識を示した。植松尚会長、安藤秀高副会長、小川武則参与の3氏に協会活動、業界動向などを聞いた。
JCROAの活動状況について植松氏は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響による今後の臨床開発の進め方について重点を置いて検討しているほか、データベース、臨床研究など活動が多岐にわたっており、特にデジタル化、リモートアクセスは活発に議論されていると説明する。
同協会の会員構成は、正会員のCROが15社であるのに対して、賛助会員はITやDB関連企業を含め32社へと増加した。JCROAとしては、製薬企業が行う治験の効率化、情報の安全確保など、治験推進に貢献するプレイヤーを目指していくスタンスに変わりはない。
COVID-19の対応は会員各社が独自に行っているが、業界としては4月に日本CRO協会、日本SMO協会、日本製薬工業協会の3団体連名で、治験・臨床試験の実施・管理等についてステートメントを出している。
安藤、小川の両氏は、電磁化推進、リモートアクセスのタスクフォースに携わっている。コロナ禍では医療機関訪問が制限される中、医療機関側からリモートでの電子カルテ閲覧、SDVの要望が多くなり、JCROAに以前から設けていたSDVリモート閲覧室の利用で複数の契約が進められている。地域医療連携ネットワークを活用している医療機関では、リモートアクセスの技術的ハードルは低く、ポリシー、セキュリティをクリアすれば、リモートアクセスは可能であるという。
電磁化推進では、医療機関側の理解も広がりつつあるので、現場のCRAが電磁化の相談を受けた際に、きちんと対応できるように研修と資料の準備を整えている。今年度中には研修を実施する予定だ。
医療データ活用に関しては、2年前に製造販売後データベース調査が認められたが、実際に取り組んでいるところは少ないという。最近では徐々に医療データ活用とメリットが理解されつつあるため、CROは日本の医療データベースの活用法を提案する活動に取り組んでいる。
現在は、製造販売後、臨床研究のエビデンス構築・論文化に使われているが、将来的には欧米のように申請データ、治験に活用できるよう賛助会員のシステムベンダーと一緒になって準備を進めている。
今月17日には、e-TMFのウェブシンポジウムをJCROA主催で開催し、主要な製薬企業を含めて関係者300人が参加した。TMFの電磁化は欧米で進められているが、企業によってルールに違いがあり、標準化には関心が高いようだ。
CRO業務の中核でもあるモニタリング業務についても、ポストコロナではどうなるのか検討中である。今は、緊急的にリモートモニタリングを行っているが、実施してみるとできることは多いことから、今後はスタンダード化に向けて、活用法や品質・信頼性の確保、確認の手法などを効率的、かつメリハリを効かせてCROから提案していく。RBM(リスクベースドモニタリング)のアプローチを核にリモートモニタリングにシフトして、CROから提案することで標準化を目指し、治験の効率化を進めていきたい考えだ。
また、コンプライアンスのタスクフォースでは「コンプライアンス宣言」を公表して、会員への周知と外部への発信に取り組んでいるほか、新型コロナウイルス緊急支援事業を行っている団体への寄付や献血などの社会貢献活動も展開した。両方とも患者中心の考え方に基づいて行われた。今後も臨床開発の変化や、患者に必要な薬を早く届けるために何が求められるかなど、社会に広く認知されることを通じて協会の方向性を検討していくとしている。