疾患を抱える人のスティグマを意識しようと呼びかける動きが国内で出てきた。スティグマとは耳慣れない言葉だが、直訳すると烙印や汚名のこと。疾患への偏見や差別を通じて、患者が通常の人々とは区別された容認し難い存在と見なされてしまうことを指している。
医療従事者は、患者に不利益が及ぶスティグマの解消に向けて働きかけると共に、自らが要因とならないように注意すべきだ。
精神疾患だけでなく、様々な疾患でスティグマが起こり得る。その一つが糖尿病だ。神戸市で開かれた日本糖尿病学会年次学術集会でも、スティグマをテーマにした企画があった。
糖尿病を抱える人は、他者から偏見に基づいて、▽怠けている▽だらしない▽節度がない▽根気がない▽管理ができない――などと性格を非難されることが少なくない。
自己管理力が欠如した者とみなされることで、職場での降格や失職、内定取り消し、雇用機会の喪失、生命保険や住宅ローンの審査に通りにくいなど、不利益となる社会的な差別を受けるという。
シンポジウムでは、「背景には、ほぼ日本だけでしか使われていない生活習慣病という言葉がある。この言葉の功罪について議論が必要」との指摘があった。
疾患の発症には社会的な構造も少なからぬ影響を及ぼすが、生活習慣病と命名することで、その影響は軽んじられる。生活習慣をコントロールできない本人が悪いといった偏見が誘導されるという。
糖尿病を抱えていると、生命保険や不動産購入時の団体信用生命保険への加入が困難だったり、加入できても掛金が高かったりするなどの問題も生じる。「糖尿病患者の予後と疾病リスクが明らかになれば、改善が期待できる」との声も挙がった。
スティグマの発生源はマスコミ、職場の上司や同僚、友人、家族だけではない。医療従事者も要因になり得る。発表した加藤明日香氏(東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻保健社会行動学分野)によると、医療の場面で患者が経験する偏見や差別は、あからさまで目立ったものではない。
多くの場合、善意に基づくが、ステレオタイプによって医療従事者が意図せずに患者を見下げ、恥ずかしい思いをさせることがある。こうした侮辱的な言動や態度は、マイクロアグレッションと呼ばれている。
こうした態度に接すると患者は対話をやめてしまい、治療にも影響が及ぶ。患者は自分を責め始め自尊感情が低くなってしまう。加藤氏は「医療従事者の言葉は大きな救いや励ましとなる一方、マイナスにもなり得る」と語った。
薬剤師も日常、患者に接する中で、マイクロアグレッションと呼ばれる態度を意図せず取っているかもしれない。スティグマを意識した関わり方が求められている。