入会増、交流活発化に手応え

岩渕好治氏
日本薬学会の岩渕好治会頭(東北大学大学院薬学研究科教授)は就任1年目を振り返り、新型コロナウイルス感染症の影響で3年間中断されていた国際交流の再開に手応えを示した。世界の薬学会との交流が活発化したほか、アジアからの入会や年会参加者が増加。英文学術誌のオープンアクセス化も実現するなど、国際化に向けた大きな動きが見られた。今後、年会でのプログラムや発表スライドの英語化を進め、薬学研究者の「アジアのハブ」となることを目指す意向を示した。一方、定款を変更して新たな会員枠として「学生ジュニア会員」を創設。薬学部に入学した学生を取り込み、会員確保につなげる狙いだ。岩渕氏に聞いた。
――会頭就任から1年を振り返って。
前回の代議員総会で定款を変更し、会員枠を広げることができた。これにより、最も期待しているのが薬学部4年生以下の学生を対象にした「学生ジュニア会員」からの新規入会だ。ホームページも薬学会の活動について理解を深めてもらえるよう刷新したので、大学の先生方には学生に対する積極的なアナウンスをお願いしたい。
興味を持ってもらうためには、入会に当たってのインセンティブが必要になると思う。まずは学生ジュニア会員向けの特典を見てメリット感じていただき、薬学会の様々な活動に参加してもらえるようになることを期待したい。これは、4月以降の大きな動きになると思っている。
中高生会員も設定した。正会員ではないが、年会費1000円で会誌「ファルマシア」を閲覧できるようになるので、薬学に興味のある学生の入会を期待したい。薬学会では、支部活動で高校生向けのアウトリーチ活動を盛んに行っているので、その中で学生ジュニア会員、中高生会員を周知してもらい、共感してくれた学生が入会するような道筋が作られていけばと思っている。
一方で、60歳以上のシニア会員にも活躍していただきたいと考えており、リタイア後も何らかの学会活動に関わっていただけるよう議論しているところである。
また、国際交流も大きく進んだ1年だったと思う。新型コロナウイルス感染症の影響で3年間、国際交流が止まっていたが、昨年の札幌年会で再開の動きが見られ、同9月には台湾薬学会と二国間交流協定を結ぶことができた。
既にアジアでは、韓国薬学会とも交流協定を結んでいるが、時差が少なく、経済と薬学の発展が著しいアジアを一つの核にして、国際的なプレゼンスを上げていかなければならない。
そのためには、日本人の英語力を上げたり、日本の研究を理解してもらう努力が必要になるだろう。身近なアジアでの立ち位置をもっと明確にしながら、日本がハブになれるよう世界から多くの参加者が集まる年会にしていきたい。
昨年10月には、ドイツ薬学会に招聘されて講演する機会があった。その時にも日独の交流を活発に行っていくことを確認しており、国際交流の動きがコロナ前に戻りつつあると感じる。
東南アジアのタイとも交流が盛んになっており、交流協定に向けた話し合いが進んでいる。現在、日本との協定は韓国、ドイツ、台湾の薬学会と結んでいるが、お互いに行き来できるようになるとわれわれも励みになるし、刺激を受けて研究も活性化するという良い流れが作れると思う。
学術誌OA化で世界基準に
――薬学会の国際化への対応は。
これまで年会の要旨が日本語中心に作成されていて、海外の参加者が来ても、どの会場で何のセッションが行われているか分かりにくいとの指摘があった。そこで遅ればせながらではあるが、今後は英語版のプログラムを用意し、発表者には英語でスライドを作成してもらうよう準備を進めている。
日本語で発表していても、スライドが英語であれば海外からの参加者もある程度内容を読み取ることができるので、少なくともサイエンスに関する研究発表については、英語のスライドで発表してもらうように対応したい。
実際、最近は海外からの入会や年会への参加者が増えている。英語で運用することにより、日本の薬学研究者と交流できる舞台をしっかり作ることができれば、国際化が一層活発になってくると思う。その取り組みをもっと推し進めていきたいと考えている。
――学術誌のオープンアクセス(OA)化について。
学術誌の「ケミカル・アンド・ファーマシューティカル・ブレティン」(CPB)、「バイオロジカル・アンド・ファーマシューティカル・ブレティン」(BPB)については、オンライン化に加え、今回オープンアクセス化の流れにも転換できたことは、非常に大きな成果だと考えている。
学術誌の客観的な評価としてインパクトファクターが重要となるが、今回オープンアクセス化を実現したことにより、世界の薬学研究者がCPB、BPBに学術論文を投稿する選択肢に入ったと思っている。もはや、プラットフォームとしては学術誌として世界レベルの条件を整えたと言っていいだろう。
日本の薬学のレベルは高く、新薬を創出できる科学技術力を持っている数少ない国でもある。その日本の薬学を基盤としている学術団体のインパクトファクターは、もう少し高くあるべきだと感じている。
その意味では、良い研究であれば論文を引用する研究者が増えてくるし、論文掲載料も海外の商業誌に比べてリーズナブルな料金設定であり、魅力的な学術誌になっているのではないか。あとは会員の積極的な投稿をお願いしたい。
次世代へつなぐ人材育成を
――新たな会員資格を含め会員増への対応は。
学生ジュニア会員はこれからだが、シニア会員の入会が結構あり、一定の効果はあったと思う。また、薬学会は公益社団法人のため、社会貢献として次世代の人材育成が重要な役割である。若い会員を増やしていくため、支部の活動で周知していただきながら、薬学を選択する学生の発掘につながるよう協力をお願いしていきたい。
若手研究者の顕彰活動も重要である。素晴らしい研究成果に対しては、研究者を表彰することでモチベーションを持ってもらいたいし、会費が社会の発展のために使われていることも分かりやすく伝えていきたいと考えている。寄付をしていただいている賛助会員への感謝の気持ちをしっかり伝えることも大事だ。
――2年目に向けた抱負を。
薬学会の活動は、基本的に役員や委員会の先生方のボランティアによって成り立っている。例えば、学術誌やファルマシアは相当のエネルギーを割いて作成していただいている。そういう様々な役職者の努力をもっと見える化したい。内向きな活動にはなるが、会員のネットワークや努力をもっと見える化して、薬学会という組織体を強化したいと思っている。
薬学会は140年以上の伝統があり、日本の薬学をリードしてきた学会である。その会員であることの意味を入会時に受け止めてもらい、誇りを持てるような会にしていきたい。
私の役割は何か新しいことをするのではなく、人の結束力や会員の力を内側から強化していくことだと思っている。コロナ禍で薄れてしまった人と人とのつながりを再び取り戻し、薬学会の歴史と将来にわたる意義を会員に考えてもらい、さらなる発展に取り組んでいけるようなことをまとめられればと考えている。
そうした学会にするための様々な仕組みを作って、次の会頭にバトンを渡したい。