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【日本薬学会第144年会】組織委員会インタビュー 「遺伝子」や「環境」と共栄する薬文化の創生‐持続可能な“デジタル治療”の融合を目指して

2024年03月26日 (火)

日本薬学会第144年会‐28~31日、パシフィコ横浜で開催

時計回りで右下から米持組織委員長、東副組織委員長、成田副組織委員長、池田広報委員長

時計回りで右下から米持組織委員長、東副組織委員長、成田副組織委員長、池田広報委員長

 日本薬学会144年会が28~31の4日間、「『遺伝子』や『環境』と共栄する薬文化の創生―持続可能な“デジタル治療”の融合を目指して」をテーマに、横浜市のパシフィコ横浜で開かれる。5年ぶりの完全対面での開催となる今年会は、国の研究機関である国立医薬品食品衛生研究所、国立がん研究センターの協力を得て、共同運営の体制となっているのが特徴。昨年、日本薬系学会連合が発足したことを契機に、“学会融合”を目指したジョイントシンポジウムを設定したことも大きなポイントで、最先端の話題が目白押しとなっている。そこで、組織委員長の米持悦生氏(星薬科大学教授)、副組織委員長の成田年氏(星薬科大学教授/国立がん研究センター研究所分野長)、東伸昭氏(星薬科大学教授)、広報委員長の池田弘子氏(星薬科大学教授)に、年会の見どころなどを聞いた。

 ――5年ぶりに完全対面で開催される日本薬学会144年会のテーマ「『遺伝子』や『環境』と共栄する薬文化の創生―持続可能な“デジタル治療”の融合を目指して」に込められた思いや年会のコンセプトについて、米持組織委員長からお話しいただけますか。

 米持 遺伝子と環境は、現在の薬学分野においてのキーワードであると考え、国衛研とがん研究センターの協力を得て開催することもあり、テーマを設定しました。ゲノム医療の最先端として、どこまで遺伝的に病態が解明できているのか、また遺伝子が同じでも食物などの環境によって左右されるなど、薬学にはこうしたことを全て理解して薬を創製していく文化があると思います。今年会は、その文化を統合し、薬文化をうまく国民に届けるため、最新の薬学研究の成果を提供したいと考えています。

会場となるパシフィコ横浜

会場となるパシフィコ横浜

 薬学会年会は薬系最大のイベントになっています。今回は例年に比べて臨床系のプログラムが多く、様々な分野の人たちが交流し、会話をすることで、より良い薬が生み出されるきっかけになってほしいと期待しています。

 最近は学会も細分化され、薬学会年会のように幅広い分野の研究者が集まる場は貴重です。ノーベル賞級の化学の話題から最先端の研究、臨床応用の最前線まで、世界トップレベルの研究者の講演を聞ける機会は多くはありません。基礎研究者から臨床現場で働く薬剤師、製薬企業の研究者まで、様々な方々と接して刺激を受けていただき、薬学の発展につなげていければという願いもテーマに込めています。

 ――他の組織と共同で組織委員会を構成するのは珍しいですね。

 成田 今までこのような例はほとんどないと思います。私は国立がん研究センター研究所の分野長を兼任しており、また大学全体としても国立がん研究センター研究所と包括連携協定を結んでいます。同様に、本学は国衛研とも連携体制が整ってきたところでした。こうした背景があったので、3機関の共同による組織委員会がスムーズに発足できたものと思います。

 今、私たちは薬学と最先端の研究所の研究に対する意識をマッチングさせないと、教育と研究が乖離してしまうという危機感を持っています。星薬科大学は私立の単科大学で組織も大きくありませんので、そういう意味でも国の研究機関と組織を融合した形で開催する今回の年会には意義があると考えています。

過去最大のプログラム数予定

 ――プログラム編成の特徴について教えてください。

 米持 今回は過去最大のプログラム数を予定しており、臨床系の講演が多くなっているのが特徴だと思います。特に土曜日、日曜日の週末に薬剤師の研修認定単位を取得できるプログラムを多く編成していますので、あまり薬学会に参加したことのない方も参加しやすい日程としました。

 非会員にも参加しやすい「ワンデーパス」も設定していますので、臨床系の方にも講演を聞いていただき、新たな学びを得て日常業務につなげてほしいと考えています。

 また、今回の最大のポイントとして、“学会融合”のジョイントシンポジウムが挙げられます。昨年、日本薬系学会連合が発足しましたが、その連合を構成する学会のキックオフイベントの位置づけとなっています。

 特別講演では、ノーベル賞級の講演者を多数招聘しています。今回は完全対面ということもあり13題と例年に比べて多く設定しています。非常にレベルが高く、幅広い最先端の内容が聞ける構成となっていますので、より多くの方に参加してほしいと思っています。

 ――シンポジウムの特徴についてはいかがですか。

 米持 話題としては、注目されている中分子創薬などの内容が多くなっていると思います。一般シンポジウムでは、「中分子創薬研究のフロンティア―中分子創薬に資する次世代分子技術」「中分子医薬および超分子DDSの開発・評価とレギュレーションについて考える」「中分子ペプチド医薬品の未来を拓くイノベーションとレギュレーション」といったように、化学系の基礎研究から臨床開発から上市を見据えたレギュラトリーサイエンスまで、薬学会ならではの幅広い演題が並んでいます。興味が集まりそうな分野を見ても、上流から下流まで十分なプログラムを用意できているのではないかと思います。

 成田 プログラム委員長である本学の杉田和幸先生のご人脈や強いリーダーシップのもと、各プログラム委員の多大なご尽力により、素晴らしいプログラムになっています。

 プログラムをご覧いただくと分かるかと思いますが、各テーマを深く掘り下げるだけではなく、横にもつながる内容となっているのが特徴です。化学系、生物系、臨床系といった各領域の知識や経験を融合させ、さらに内容を深掘りして横にも広げられるというのは、薬学会年会でしかできないプログラムだと考えています。

 特別講演でもノーベル賞級の錚々たる研究者に講演をお願いしていますので、参加して意味のある魅力的な年会になることを期待したいです。

 米持 目玉企画の一つとして挙げられるのが、ダイバーシティをテーマにした理事会企画シンポジウム「ダイバーシティの新潮流:ダイバーシティマネージメントと活躍する女性の視点」で、特に新型コロナウイルス感染症のmRNAワクチンを開発した米モデルナ日本法人前社長の鈴木蘭美先生をお呼びしています。

 ダイバーシティの話題も増えていますが、今回は少し違った視点でのダイバーシティを考える内容になったと自負していますので、薬学会に参加する女子学生が将来を考える上で参考になるようなシンポジウムになってほしいです。

幅広い内容の特別講演

 ――特別講演も例年より多い13題が設定されています。

 米持 特別講演は非常にレベルが高く、かつ幅広い内容を網羅できたと思っています。ノーベル化学賞受賞者のモーテン・メルダル先生(コペンハーゲン大学、デンマーク)、島津製作所の田中耕一先生をはじめ、初日には産業界から塩野義製薬の手代木功先生をお招きしています。特に手代木先生には、薬学の学生や若手研究者に向けて、グローバルで活躍する製薬企業が求める人材像についてメッセージを送っていただけるはずです。

  メルダル先生は、クリックケミストリーという反応を開発し、2022年のノーベル化学賞を受賞した一人で、「Clicking in Chemistry and Chemical Biology」と題してご講演いただきます。

 また、松島綱治先生(東京理科大学大学院生命科学研究科)からは「ケモカイン発見による白血球浸潤機序の解明と創薬開発研究」をテーマにご講演いただきます。松島先生は、協和キリンとの共同研究で抗癌剤モガムリズマブの創製に関わっており、15年度の日本薬学会創薬科学賞を受賞されています。基礎研究から創薬までの道筋をしっかりお話しいただけるのではないでしょうか。他の先生方も、基礎研究に基盤を置きつつ、臨床を見据えた研究者ばかりの構成となっています。

 成田 臨床系では、岡野栄之先生(慶應義塾大学医学部)から「幹細胞生物学に基盤を置いた中枢神経系の再生医療と創薬研究」、坂口志文先生(大阪大学免疫学フロンティア研究センター)から「免疫応答の制御:新しい免疫医療に向けて」、間野博行先生(国立がん研究センター)から「がん創薬とゲノム」と題してご講演いただきますが、いずれも毎回ノーベル賞候補に名前の挙がる先生ばかりで、その領域のトップクラスの研究者が網羅されていると思います。

 米持 今回はコロナ後、久しぶりの完全対面での年会ということもあり、特別講演も13題と例年より充実させ、参加者が対面の良さを実感できる錚々たる演者に集まってもらうことができました。

 ――ジョイントシンポジウムについてはいかがですか。

 米持 学会融合を目指したジョイントシンポジウムは、日本薬系学会連合の立ち上げに関わっている各学会に声をかけて実現したものです。

 例えば、日本毒性学会との共催による「環境化学物質による付加体形成を介した生体恒常性への影響」、日本医療薬学会と日本薬剤学会との3学会による「医療に貢献する院内製剤:患者・臨床・企業のニーズを探り、情報を集約する」のほか、日本臨床化学会との共催による「第8回臨床化学の進歩が変える薬物治療」など11のテーマを設定しています。

 化学を基盤とする薬学会と、臨床系の応用を視野に入れた学会とジョイントシンポジウムを開催することにより、優れた創薬シーズが生み出されるきっかけになるのではないかと期待しています。特に基礎系の学生には、自分の行っている研究が将来どのように役に立つのか見えるようになればと考えています。

 ――国際交流シンポジウムとしての次世代薬学アジアシンポジウムについてはいかがですか。

 米持 次世代薬学アジアシンポジウムも大きな特徴の一つです。今回は、薬学会と学術交流協定を結んでいる学会を中心に演者を招聘しています。韓国、中国、香港、タイといったアジアの国々をはじめ、米国、カナダ、ドイツなど欧米からの参加も得て、「ケミカルバイオロジー」と「クリニカルリサーチ」の二つのテーマについて最新の話題が議論されます。

 特に今回は、円安の影響もあって招聘した演者のほかに、海外から150人以上の一般参加者があります。薬学会がサイエンスレベルの高い国際学会の一つとして認識されているためでもありますが、一気に国際化が進んでいる印象です。

リクルートコーナーを設置‐市民公開講座は星薬大で開催

 ――新たに展示会場に設置するリクルートコーナーの狙いについて教えてください。

 米持 これは日本病院薬剤師会の推薦により設置しました。医療機関で勤務する薬剤師については本当に人材が不足しており、医療機関側から薬学会で発表するような優秀な学生の採用につなげたいというニーズが高いです。

 臨床系に限らず、生物系、物理系など何らかのバックグラウンドを持ち、志の高い学生を病院薬剤部で採用して、指導的な立場の薬剤師に育てたいという期待もあります。

 年会にはサイエンスレベルの高い優秀な学生が多く参加すると思いますので、将来を考えるためにもリクルートコーナーに立ち寄っていただければと考えています。

 ――市民公開講座についてはいかがですか。

 池田 市民公開講座は学会期間中ではなく、1週間前のある23日に星薬科大学で開催します。今回はせっかく星薬大が主催する年会ですし、ちょうど本館が建設されて100周年を迎えることから、大学を紹介したいという思いで場所を選びました。

 テーマは「充実した都会生活を送るために最新の健康・医療事情を知ろう!―痛みやがんの予防・治療の進歩」としました。

 一般的に癌や痛みは身近なテーマですし、歴史的に星薬大は星製薬がモルヒネを生成した経緯から、麻薬や痛みは中心的な研究テーマでもありました。そうした大学の特色も出しつつ、一般の人も身近に感じているテーマを選びました。

 市民公開講座では二つの講演を行います。一つは埼玉医科大学総合医療センター麻酔科教授の小幡英章先生から「痛みはもはや我慢するものではない!―健康を維持し生活の質を下げないための知識」と題した講演、もう一つは順天堂大学大学院医学研究科臨床薬理学教授の佐瀬一洋先生から「重要性を増す腫瘍循環器学―ある循環器医が患者になって実感したがん医療の進歩とサバイバーシップ・ケアの最前線」と題してお話をうかがいます。

 特に佐瀬先生は、臨床薬理学の研究者であると共に癌サバイバーでもあります。その経験から、癌になったら落ち込んで死を待つのではなく、怖い病気でもなく、どうやって共存していけるかというメッセージを出せればと思っています。

 ――一般学術発表などその他のトピックスについてはいかがですか。

 米持 一般学術発表は口頭、ポスター合わせて約3600題と多くの演題が集まりました。一般学術発表については、学生を対象に「学生優秀発表賞」を設けています。今回は受賞者を増やしたいと思っていますので、学生には振るって参加をお願いしたいと思っています。

 また、研修認定単位についても、新たに(G07)神戸薬科大学、(G11)星薬科大学、(G13)薬学ゼミナール生涯学習センター、(G20)ソーシャルユニバーシティ薬剤師生涯学習センター、(P02)日本プライマリ・ケア連合学会の認証プロバイダー有志の認定単位も取得できるようになりました。土日参加でも十分に単位を取得できますので、ぜひ現場で働く薬剤師の皆さんにも参加してほしいです。

 ――参加見込みと参加者へのメッセージをお願いします。

 米持 最終的には9000人以上を見込んでいます。非会員でもワンデーパスを利用できますし、幅広い内容でサイエンスレベルの高い話題を取り揃えていますので、ぜひ横浜に足を運んでいただいて講演を聴いたり、久しぶりの友人と語り合ったりしてほしいと思っています。

 多くのご参加をお待ちしています。



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