急性骨髄性白血病再発の主原因として知られる白血病幹細胞が、骨髄と骨の境界(ニッチ)に潜んで、細胞周期を静止しているため、抗癌剤に抵抗性となっていることを、理化学研究所の研究グループが突き止めた。静止している細胞周期を動かすと、抗癌剤治療の効果が高まることも、ヒトの白血病状態を再現した白血病ヒト化マウス実験で明らかにしている。今後、さらに研究が進めば、白血病を幹細胞レベルで治療することによって、再発を克服し、根治を目指す新たな治療法の開発が期待される。
研究成果は、理研免疫・アレルギー科学総合研究センターヒト疾患モデル研究ユニットの石川文彦ユニットリーダー・齊藤頼子研究員、虎の門病院血液科の谷口修一氏、ジャクソン研究所のL・シュルツ博士の共同研究によるもの。
急性骨髄性白血病は、予後不良な悪性の血液疾患として知られているが、抗癌剤や治療法の進歩によって、以前と比べれば、かなり寛解が得られるようになってきた。しかし、いったん寛解が得られても、再発率が高いことが白血病治療の最大の問題となっている。このため、再発をなくし、白血病を寛解から根治へと導く治療法の開発が強く望まれていた。
研究グループは、2007年10月に白血病の再発の原因となる白血病幹細胞を同定し、今月には、この細胞に発現する治療標的も明らかにしてきた。
またこれまで、白血病再発の主要な原因となっている白血病幹細胞が、ニッチに存在することが分かっていたが、なぜ、その場所に集中しているのかは解明されていなかった。
研究グループは、これを解明することが、白血病幹細胞を標的とした根治療法を開発する上で鍵になると考え、まず、白血病ヒト化モデルマウスで、骨髄内の細胞周期を共焦点イメージングを使って解析した。
その結果、ニッチに存在する白血病幹細胞では、特異的に細胞周期が静止していることが分かった。抗癌剤は、増殖活性の高い(細胞周期が早い)癌細胞を標的として開発されてきたため、細胞周期が静止した癌細胞には作用しにくい。それに加え、白血病幹細胞はニッチという特定の場所に存在するため、抗癌剤の送達性も低いことから、白血病幹細胞は抗癌剤治療に抵抗性を示すものと考えられている。
それを明らかにするため、白血病ヒト化モデルマウスに、抗癌剤に加えて、細胞周期を誘導する生理活性物質のサイトカインを投与し、静止している白血病幹細胞の細胞周期を動かす実験を行った。その結果、細胞周期を動かすことによって、抗癌剤抵抗性であったものが、感受性となり、多くの白血病幹細胞が死滅することが明らかとなった。
従来の抗癌剤治療では、白血病幹細胞から分化した癌細胞だけを標的としていた可能性があり、大部分の癌細胞を死滅させても、白血病幹細胞が生き残っているため、再発が起きてくると考えられており、この成果によって、白血病の根治につながる可能性が高まってきた。
研究グループでは今月、白血病幹細胞で発現する分子群について、抗体医薬の標的となる細胞表面抗原や低分子医薬の標的となるリン酸化酵素(キナーゼ)など25種を同定することにも成功しており、今回のサイトカインと抗癌剤の併用も加え、白血病幹細胞を標的とする治療が進展することが期待される。
研究グループでは、「一人ひとりの患者と向き合う臨床現場での豊富な経験と、基礎研究に基づく疾患の根元になる細胞の詳細な解析を融合した、21世紀の新たな治療法を確立し、白血病克服を実現すると期待できる」とし、さらに研究を進めていくことにしている。