2010年夏の参議院議員選挙が終わった。菅政権で初めての国政選挙だったが、唐突な感を拭えない消費税率アップなどを打ち出した民主党は議席数を大きく減らして大敗した。
日本のこれまでの常識では、選挙前の増税論議はタブーだった。それを打破しようとしたのかどうか、菅総理の戦術意図がよく分からないが、結局、国民の多くは単なるパフォーマンスの一種としか受け取らなかったようだ。増税の必要性などは十分理解できるものの、いかんせん国民の理解を得られるまでの時間が少なかったことも原因だろう。
国会議員は、もちろん国民が選ぶのであるが、リタイヤした人を除いて、国民の大部分は何かしらの産業に従事している。このことは選挙において重要な鍵となる。農業、工業、サービス業など各産業には、それぞれの独特な風習がある。いわば業界の専門集団が産業を支え、国家を支えているのである。前回の衆院選で多数誕生した“にわか先生”には、その筋の道理は理解できまい。
与野党議席数云々という政治的な意味を除き、医薬品業界にとって、業界を熟知したプロフェッショナルの藤井基之氏が国政に返り咲いたことは朗報だ。当選までのドキュメントは前号で紹介している通りである。これまでの道程は決して平坦ではなかった。日本薬剤師連盟の児玉孝会長が全面バックアップというより、それこそ二人三脚で3年前の雪辱を遂げるため、全国を行脚し、あらゆる機会を捉えて選挙運動に尽力した賜物だといえよう。
薬業界での主力票田の一つとされる医薬品卸売業。選挙まで1カ月を切った先月14日、仙台市で開催された東北医薬品卸業連合会総会の場でも、藤井氏が記念講演会を始める前に、児玉氏が急遽登壇して「薬剤師も卸も生業は医薬品である。それを本当に知っている人を国政に送らなければならない」と、鬼気迫る口調で支援を訴えたことも異例であった。
藤井氏には、3年間の忸怩たる思いもあるだろうが、美酒に酔うのもほどほどにしていただき、さっそくプロの辣腕を振るってもらわなければならない。支持を集めて当選した以上、今度はそれに応える責務が生じるのは当然である。
卸業界でいえば、今年3月末に日本薬業政治連盟(熊倉貞武会長)と締結した政策協定書があり、藤井氏は、「私が医薬品流通業に果たす責務である」と明言した。内容は、[1]薬価改定、薬価制度改革では医薬品の安定供給体制の確立と、卸の経営基盤安定を大前提として政策を推進する[2]未妥結仮納入、総価取引など流通改善のための医療機関、卸、行政が一体となった改革体制の確立[3]新型インフルエンザパンデミック、大規模災害時の危機管理流通機能への政策的支援[4]トレーサビリティの確保など物流機能の効率化、高度化施策の推進――の4項目となっている。
また、仙台での講演会では、ワクチンの返品問題を指摘したほか、効率的物流のためのパッケージの統一など、業界を理解していなければ言えないようなこともすらすら言ってのけるあたりはさすがだ。
当選した際に、「皆さんに約束した内容を、政治の場で実践していきたい」と意気込みを語った藤井氏に対して、薬業界からはその実行力に大いなる期待が寄せられている。