
川原氏
厚生労働科学研究費補助金による「漢方薬に使用される薬用植物の総合情報データベース構築のための基盤整備に関する研究」(主任研究者:川原信夫医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター長)が、今年度から3年計画で始まった。研究は70~80品目の薬用植物について、成分、遺伝子、生物活性、官能データ等の情報を、総合的にデータベース化して公開するもの。わが国では初めての試みで、輸入依存度の高い重要生薬の国内栽培振興、貴重な遺伝資源の確保・維持などを図ることが狙いだ。まず今年度は、オウゴン、カンゾウ、ショウキョウ、ソウジュツ、ニンジンの5品目を中心に行われる。
栽培振興や資源確保が狙い
川原氏によれば、薬用植物資源研究センターは既に119品目の薬用植物について、データを取りまとめて公開しているが、生薬や栽培法などの情報が主体で、化学的情報や遺伝子情報が不足しているという。また、このようなデータベースは、富山大学和漢医薬学総合研究所等でも作成されているものの、様々な情報を網羅したデータベースはない。そこで、公的機関として総合的なデータベースを構築し、薬用植物の栽培や研究の振興に役立てようと考えたものだ。
薬用植物データベース作成の目標は、▽漢方薬の品質、有効性、安全性の確保▽日本薬局方収載生薬の高度利用▽国内における効率的増殖法の確立▽薬用植物栽培の振興▽漢方製剤の原料となる遺伝資源の確保・維持▽生物資源を基盤とする研究活動、産業振興への寄与――など。
データベース化される品目は、重要度の高さで選定された。わが国の医療用漢方製剤は約150処方に上るが、そのうち44処方で生産量の約90%を占める。これら最重要処方に配合されている生薬75品目(別掲)が、主要な対象として選び出された。初年度はそのうち、オウゴンなど5品目を中心に、データの収集が進められる。
従来のデータベースには、生データを収めているケースが少ないことから、研究班は構築するデータベースに、種々の測定データを載せていく方針だ。また、生薬は産地等の違いによって、含有成分等にも違いが出てくるため、市場に流通し、かつ今後も供給可能な汎用性の高い生薬を集め、共同研究機関も含め全て共通のサンプルで測定を行うことにしている。
登載される情報は、[1]成分分析データ(薄層クロマトグラフの写真、高速液体クロマトグラフのチャート、NMRによる主要成分の構造情報)[2]遺伝子の識別部位に関する情報、植物組織培養物の効率的増殖法、植物の効率的生産法[3]生物活性情報、副作用情報[4]さく葉標本の画像、生薬の内部形態写真[5]保存種子や種苗特性等の情報[6]官能データ(味、におい、色などを数値化)[7]漢方処方関連(食薬区分やエキス量の情報)――等が想定されている。
研究は、薬用植物資源研究センターが中心になるが、国立医薬品食品衛生研究所、富山大学和漢医薬学総合研究所、金沢大学自然科学研究科、岐阜薬科大学、慶応大学薬学部が一部を分担する。さらに医薬品医療機器総合機構、日本漢方生薬製剤協会、日本生薬連合会、日本試薬協会などの協力も得る。
この研究では、75品目を中心に3年かけてデータベースの作成が行われるが、研究班では44処方以外の漢方処方に配合されている生薬や、その他の日本薬局方収載生薬を含め、全部で168品目をリストアップしている。これら全てをデータベース化することは、1期3年間では無理。そのため川原氏は、「できれば、さらに3年間、継続して研究を進めたい」と述べている。
44処方に配合される重要生薬75品目
アキョウ、イレイセン、オウギ、オウゴン、オウバク、オウレン、オンジ、カッコン、カッセキ、カンキョウ、カンゾウ、キキョウ、キクカ、キジツ、キョウカツ、キョウニン、ケイガイ、ケイヒ、コウジン、コウベイ、コウボク、ゴシツ、ゴシュユ、ゴミン、サイコ、サイシン、サンシシ、サンシュユ、サンショウ、サンソウニン、サンヤク、ジオウ、シャクヤク、シャゼンシ、ショウキョウ、ショウマ、シンイ、セッコウ、センキュウ、ソウジュツ、ソヨウ
ダイオウ、タイソウ、タクシャ、チョウトウコウ、チモ、チョレイ、チンピ、テンマ、トウキ、トウニン、ドクカツ、ニンジン、バクガ、バクモンドウ、ハッカ、ハンゲ、ビャクシ、ビャクジュツ、ブクリョウ、ブシ、ボウイ、ボウショウ、ボウフウ、ボクソク、ボタンピ、ボレイ、マオウ、マシニン、モクツウ、モッコウ、リュウガンニク、リュウコツ、リュウタン、レンギョウ