厚生労働省は、多剤耐性アシネトバクター感染症を、感染症法の5類感染症に位置づけ、全国の470指定医療機関を対象とした定点把握を実施する。1日の厚生科学審議会感染症部会で決定した。パブリックコメント手続きを経て、関係省令を改正し、年明けから運用する見通し。
多剤耐性アシネトバクターは、通常のアシネトバクターと比べて病原性が特段強いわけではなく、健常者には無害だが、カルバペネム系をはじめ、ほとんどの抗菌薬が効かない。2000年頃から欧米で広がって、警戒され始めた。国内では、約850病院が登録する「厚労省院内感染対策サーベイランス(JANIS)」で発生が確認されていたが、帝京大学病院での死者を出す集団感染が判明して危機感が高まった。
そこで、国として発症動向を調べて、一般国民や医療関係者に情報提供し、全国的な対策を促すこととなった。感染症法に基づく調査には、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌らの全数把握と、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌らの定点把握の2通りがある。多剤耐性アシネトバクターは、既に一定程度の医療機関で検出されているため、稀な疾病を対象とする全数把握ではなく、各二次医療圏に1カ所以上指定する基幹病院から、月報として届出を求める定点把握にした。
なお、JANISは登録病院は多いものの、任意参加で地域偏在が見られる。ただ、発症者の報告を原則とする感染症法の調査と異なり、保菌者も含めているため範囲が広い。そのため、部会側からは、JANISも活用しながら感染症対策を強化すべきとの指摘が出た。