医薬品の流通改善が、昨年から停滞の様相を呈し、前進していない。なぜだろうか。
厚生労働省の「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会」(流改懇)が、2007年9月28日に緊急提言で指摘した医薬品卸における課題は三つあった。それは、▽原則6カ月以上の長期にわたる価格未妥結・仮納入の改善▽総価契約の改善▽一次売差マイナスの改善――であり、いわゆる3点セットと呼ばれている。
08年に成果が見えやすい未妥結・仮納入の改善、つまり早期妥結へ優先的に取り組んだ結果、従前の妥結スピードを上回って一定の評価を得たものの、あまりに妥結を急いだために、市場全体で価格低下を招き、医薬品卸が被った代償は非常に大きかった。
結果はともかく、一定の評価を得るに至ったのには、医薬品卸の努力は当然のこと、行政の強力なバックアップもあったからだ。08年3月5日に厚労省医政局長と経済課長から、関係団体に依頼通知が発出された。この援護射撃はかなりの威力を発揮したと考えられ、行政と業界が一体となって取り組んだ好例になった。
10年4月には、新薬価制度で新薬創出・適応外薬解消等加算が試行的に導入された。これは、総価取引による価格交渉では難しい仕組みであり、医薬品の価値に見合った価格、つまり単品単価契約が必要になる。そのため医薬品卸各社は、前回とは違って価格の早期妥結よりも、単品単価契約を優先した。その結果、妥結状況が逆戻りしてしまっていることは、購入側にまだ「後から価格を決めた方が得だ」という考えが、根底に存在していることにほかならない。
価格が決まらないのに商品を納入する特異な商習慣を是正するため、早期妥結に対するインセンティブを設けられないか、流改懇で複数の学識者から意見が出されたことは周知の通りだ。流通改善に取り組んでいる中で、なぜだかこの部分に関するアクションがさっぱり見えてこない。
医薬品卸側は膠着状況を打破すべく、流通当事者が話し合う場である流改懇の開催を申し入れていたようだが、行政側は、妥結率の数値だけではなく、3点セットである程度の動きが確認できる状況にならないと、開催する意味は薄いという判断のようだ。
1月27日に阿曽沼慎司厚労事務次官や関係局長と、別所芳樹会長をはじめとする日本医薬品卸業連合会トップとの会合が行われ、阿曽沼事務次官は、流改懇の開催に前向きな姿勢を示したことは既報の通り。流改懇で現状と課題を掘り下げて改善策を探ることで、流通改善に取り組んでいる姿勢を国民に示す好機になることを望みたい。
一方で、ここまで頑張ってきた医薬品卸も、とうとう価格を下げる競争に突入したとも聞く。医薬品卸のトップが過去の反省に立って、同じ轍は踏まないとの姿勢を示していたにもかかわらずだ。同じ轍を踏まないというのは、二度過ちを繰り返さない例えだと信じていたが、どうも医薬品卸業界ではそうではないらしい。そんなに何度も、同じ轍を踏めるものなのか。厳しい営業の駆け引きをしている現場を知らない者には、到底理解できない。
公的な医療保険制度の中において、「メーカー、卸、医療機関・調剤薬局」の3者が、全て勝者になることは困難だが、どこかだけが儲かることも国民の理解を得られないだろう。ここは三方一両損の精神で、健全な医薬品流通の姿になることが肝要ではないだろうか。