ドーピングの歴史は意外に古く、古代ギリシャ・ローマ時代に、勇者がコカの葉を噛んで猛獣との格闘競技に挑んでいた。スポーツ界のドーピング記録では、1865年のアムステルダム運河水泳競技が最も古いといわれている。
ドーピングは一般的に、競技に勝つための薬物使用と定義されており、当初は、麻薬や覚せい剤、興奮剤が検査対象となっていた。その後、1976年のモントリオールオリンピックからは筋肉増強剤の蛋白同化ステロイド、00年シドニーオリンピックからは、エリスロポエチンの検査が追加されるようになった。
ドーピングは、▽競技者の健康を害する▽フェアプレー精神に反する▽反社会的行為――などの観点から、健全なスポーツ発展を妨げる行為として固く禁じられている。だが残念ながら、オリンピックや世界選手権など、大きな国際大会が開催されるたびに、ドーピングの話題がマスコミを賑わしているのが現状だ。
その一方で、競技者が治療で服用している薬剤の知識不足などによって生じる、「うっかりドーピング」の事例も少なくない。
わが国では、03年の静岡国体から、国体においてもドーピング検査が実施されるようになり、トップアスリートのみならず、多くの競技者が検査対象となった。
多数の競技者を対象とした「うっかりドーピング」防止には、ドーピング防止や薬に関する十分な情報提供と教育啓発が、必要不可欠となるのはいうまでもない。
実際、静岡国体を契機に、毎年、国体開催県の薬剤師会と体育協会が連携した「うっかりドーピング」防止対策が講じられるようになり、スポーツ領域における薬剤師職能活用のきっかけとなった。
さらに、06年12月のドーピング防止活動に関するユネスコ国際規約の締結、これを受けた文部科学省のガイドライン策定(07年)で、世界初のスポーツファーマシスト誕生への機運が高まっていった。
スポーツファーマシストは、競技者などへの薬の正しい使い方の指導や、ドーピング防止の普及・啓発などを主な活動内容としており、昨年4月、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)から約800人が認定された。今年も2200人程度の追加認定がされる見込みだ。
スポーツファーマシストの活躍の場は、広領域にわたる。国体に向けての都道府県選手団への情報提供・啓発活動以外にも、スポーツ愛好家への薬の情報提供、学校教育現場における薬物に関する啓発活動など、多くの活動例が見られる。
スポーツファーマシストとして活動の場を広げていくには、個人レベルでは、地域の体育協会やスポーツジムなどとうまく連携し、その職能をアピールすることが大きなポイントになるだろう。学校薬剤師が率先し、スポーツファーマシストになるのも妙案ではないだろうか。
組織レベルでは、各都道府県薬剤師会が、各自治体のスポーツ医科学委員会と連携して、各種講演会や研修会への講師派遣依頼を受ける施策などが考えられる。
スポーツファーマシストの幅広い活躍が、一般市民への薬剤師職能PRに大きく寄与することが期待される。