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「日本の医療」本質の議論を

2011年11月18日 (金)

 TPP参加への賛成派・反対派も含め、国民の多くは「結局、APECで参加表明をするためのシナリオだった」と思ったのではなかろうか。また、参加表明するやいなや、米国側は、野田首相が「全ての物品およびサービスを貿易自由化交渉のテーブルに載せる」と、オバマ大統領に発言したと発表。日本側は訂正を求めるなどしたが、先制の“ジャブ”を喰らった形だ。

 参加表明まではまさに駆け足。8日には民主党内の議論がヤマ場を迎え、9日に民主党経済連携プロジェクトチームが、決断は野田首相に預ける形で賛否両論併記の提言書をまとめた。反対派の意向が強かったことからか、10日に予定していた首相による交渉参加表明を急遽延期、慎重な姿勢を演出。

 さらに11日には衆参両院で集中審議も行った。首相は交渉参加について、意見を聞く、熟慮すると繰り返し、正式な表明は一切避けた。その上でその夜、記者会見で、「ホノルルAPEC首脳会議において、TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入る」と“参加表明”した。

 当日の集中審議で“参加表明”しない首相へ、野党からは「国会軽視」と激しく攻められていたが、国会後の会見を見れば、珍しく、的を射た“口撃”だったともいえる。

 APEC首脳会議へ出席するためにハワイを訪れた首相は、早々に日米首脳会談でTPP参加方針を伝えたが、双方の発表で、いきなり日米間の認識の違いが露呈。深読みすれば、米国側の“例外なし”という強い姿勢を見せつけられた。

 首相は「日本の医療制度、伝統文化、美しい農村は断固として守り……」と強調したが、集中審議のやりとりを聞く限り、例外はない。国内法よりTPPが優先されることははっきりした。

 日本福祉大学の二木立副学長によれば、国民皆保険制度そのものは解体されないが、米国の要求で混合診療解禁の対象が大幅に拡大、医療特区で株式会社制病院の開設が認められる可能性は否定できないという。他国の経験から米国(政府または企業)が、日本特有の薬価制度の廃止を求めてくることは確実で、新薬の価格が高騰、医療費を押し上げる可能性もあるという。

 米国通商代表部が今年9月に発表した「医薬品へのアクセス拡大のためのTPP貿易目標」によれば、医薬品等にかかる関税の廃止、流通障壁の最小化、さらに、政府の健康保険払戻制度の運用において透明性と手続きの公平性の基準を重視するとし、日本固有の国民皆保険制度や薬価制度もターゲットと見られる。

 輸出倍増計画を推し進める米国にとって、TPP内の最大マーケットは日本であるのは事実。小泉改革以来、疲弊した医療体制を見直しつつある中、再び国内の規制改革派が勢いを増す可能性も見逃せない。日本の医療の姿をどう描くか。努々外交問題にすり替えないよう願いたい。



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