様々な健康関連情報を紹介してきた関西テレビの「発掘!あるある大事典II」が、番組打ち切りに至った事件はまだ記憶に新しい。納豆ダイエットを取り上げ、店頭から納豆が姿を消すほどの大ブームを巻き起こしたが、実は使用したデータやコメントが、虚偽あるいは架空であったというものだ。
視聴率至上主義にことよせ、納豆とダイエットのエビデンスがないにもかかわらず、学者の発言から実験結果までの全てを捏造した番組制作の姿勢には、空いた口も塞がらない。特にダイエットや育毛は、現代社会に生きるわれわれにとって、身近な悩みの種になっている。「たかが納豆、摂取過多による心配はない」という安易な考えで、番組制作者が視聴者の「やせたい」という弱みにつけ込んだと断言されても、言い訳の余地がないだろう。
だが、納豆菌類には、ワルファリンなど抗血液凝固薬の働きを減弱させる作用がある。心筋梗塞や脳梗塞の患者、あるいはその予備軍と診断されて、血液凝固阻止薬を服用する患者が、痩せたい一心で納豆を大量に摂取し続ければ、どのような結果を招くは火を見るよりも明らかだ。そのような事故が起きた場合、一体誰が責任を取るのだろうか。
「食べれば痩せる」「血圧が下がる」など、食物や特定保健用食品以外の健康食品の効能を、広告でうたうことが薬事法で許されていないのは、改めて言うまでもない。“娯楽番組だから何をしても構わないだろう”といった甘い考えは通用しないことを、番組製作者は肝に銘じるべきだ。
過去にテレビ番組が火をつけた健康食品ブームは少なくない。10年ほど前には、赤ワインに含有するポリフェノールが悪玉コレステロールの酸化を抑制し、血栓予防に効くと話題になった。同じ時期に、ココアの食物繊維がダイエットに効果があると紹介され、たちまち商品不足に陥った。玄米黒酢が新陳代謝を高めてダイエット効果を発揮すると放送されると、あっという間にブームに火がついた。寒天ダイエットがもてはやされたのもつい最近のことで、数え上げればきりがない。
視聴者はそれら不確かな情報に踊らされ、右往左往させられたことになる。これまでの健康食品ブームでは、明らかな健康被害は発生していなかったが、先月にはついに花粉症への効能をうたった花粉加工食品を飲用し、40歳代の女性が一時意識不明に陥るという事件が起きた。
サプリメント、健康食品、機能性食品など、巷には健康そうに見えるものが氾濫している。だが、食品で最も大切なのはバランスであり、特定の健康食品を摂取するだけで悩みは解決されない。健康食品に関する情報は、その効用・特徴だけを訴求するものが大半で、過剰摂取の弊害や副作用、医薬品との相互作用には触れていないケースが目立つ。
昨年成立した改正薬事法では、セルフメディケーションに用いる一般用医薬品は、薬剤師や専門的な知識を有する者の情報提供に基づいて、国民が選択するように定められた。薬局は健康食品やサプリメント、食物の情報提供にまで、もう一歩踏み込まなければならない。薬剤師は、セルフメディケーションで社会にどう貢献できるのかを、真剣に考えるべき時期に来ている。