世界経済は依然として明るい光が差し込まず低迷している。今月初めのフランス大統領選挙とギリシャ総選挙の結果を受け、欧州各国の財政再建への取り組みが後退するとの見方が強まり、欧州の財政・金融危機への懸念が一気に再燃した。ギリシャのユーロ圏離脱の可能性も高まっており、今後の動向が気になる。
欧州の経済もさることながら、米国経済が世界に及ぼす影響は計り知れないものがある。米国の実質経済成長率の上昇なくして、世界経済の回復はない。
では、その米国経済の現状と見通しはどうか。米国では、2008年9月のリーマンショックで落ち込んだ経済成長率が、09年の第3四半期から上昇し始め、10年には、リーマンショックのリバウンドで4%まで上昇したものの、現在は1~2%程度と低迷している。
近年の米国の経済成長は、高級デパートの売上増加傾向などから、富裕層の消費が牽引しているものと分析されている。反面、サブプライムローン問題以来、借金で苦しむ低所得層の消費は落ち込んでおり、貧富の格差がより拡大しているのは間違いない。
低所得者層の家計のバランスシートを改善するには、まだまだ長い時間を必要とするため、恐らく今後も米国の経済成長率は毎年1~2%程度と予測されている。
中国をはじめとする新興国市場伸長への期待は高いが、それだけで世界経済を成長させるのは困難だ。やはり、米国の経済が高度成長に転じない限り世界経済の回復は実現しないと考えられる。
一方、日本の経済展望はどうか。「米国の経済成長率が1~2%なら、日本は1%より高い数字は見込めない」と試算する専門家が多数を占めている。
加えて、円高や東日本大震災からの復興の遅延、電力問題などが景気低迷に拍車をかけており、どうひいき目に見ても、日本経済の今後の見通しは、決して明るいとは言えない。
このような経済情勢の中、わが国では、税と社会保障制度の一体改革が推し進められようとしている。
基礎年金以外の年金の受給者は、決められた額の年金を受け取っているが、若い世代の年金支給は保証されていないのが現状だ。
世界的な経済の長期低迷や少子高齢化の進行によって、高齢者や退職世代を現役世代だけで支える従来の構図は、もはや成り立たない。高齢者や退職世代に分相応の負担を求めることは避けて通れない状況下にある。
税と社会保障の一体改革を実施する上で、「高福祉・中負担」社会の実現を探るのか、あるいは自己責任を基本とした「中福祉・低負担」の道を進むのか、政府は社会保障の選択肢をしっかりと国民に示し、その方向性を明確にする必要があるだろう。
世界経済が低迷する今こそ逆転の発想を持ち、将来の試金石となるような税と社会保障制度を構築するチャンスと捉えるべきだ。