TOP > 社説 ∨ 

医療・薬剤経済学の再構築を

2006年03月15日 (水)

 今月初めに開かれた日本製薬工業協会の政策セミナーでは「医療社会主義」「なお払拭できないパターナリズム」「極めて低い患者満足度」、さらには塩崎恭久衆議院議員による「“四角いスイカ”は食べたくない、スイカは強い日差しで丸く育ったものに限る」など、名言、苦言、問題提起が続出した。

 特に、日本を離れて16年という尾見茂氏(WHO西太平洋地域事務局長)は、海外から日本の医療を見た印象として、▽医療従事者に対する不信感▽疾病は診るが患者の“病感”に鈍感な医療従事者▽コミュニケーション不足による患者側の意思決定への無力感▽快適さに欠ける医療現場――と手厳しい言葉が続いた。

 患者不満足の根本原因について尾見氏は、生物医学的方法論(還元主義、病気と病因の1対1対応、定量化・定性化可能な方法論の採用)を挙げ、この枠組みで理解できないものは取り上げてこなかったと指摘し、たこつぼ的視野を克服して新しい“人間医療学”を確立するよう求めた。

 こうした海外からの見方に対し、国内から問題点を挙げたのが矢崎義雄氏(国立病院機構理事長)である。国民皆保険と公定価格制は、医療機関に対する低コストでのフリーアクセスを実現したものの、医療提供がパターナリズムとなり、全人的医療、安全性、エビデンスに基づいた医療、患者の選択権など、多くの課題を生じてきたと指摘した。

 ここには医療費・薬剤費に対する根本的な考え方の相違がある。米国では医師による“医療行為”を主に評価し、薬剤は別払いのため厳しい市場競争が成立している。一方で日本は、診療報酬が公定価格の“現物支給”であり、医療評価による市場競争は成立しにくい。そのため、マクロ的には医療コストが効率的に見えても、ミクロでは医療サービスや薬の使われ方が非常に問題になる。医療費(薬剤費)はコスト抑制ではなく、コスト効率の改善を目標とするよう訴えた。

 今回の政策セミナーは、医療費・保険政策よりも、医療そのものを語ろうとの趣旨であったが、どうしても保険政策に話が向いてしまう。矢崎氏は「政策リスクが極めて大きい。政策変更への対応に必死で、ニーズが見えてこない。包括↓出来高↓包括、紹介率の評価↓廃止とコロコロ変わる。振り回されているばかりだ」と一貫性のない政策を批判した。

 要するに、医療政策を診療報酬主導で動かしてきたツケが、小児科・産科の例を挙げるまでもなく、地域単位、領域単位の人的資源偏在となって現れているのではないか。

 医療の価格についても、今や国内で公定価格制度をとり続けているのは、医療だけになってしまった。公定価格廃止論を展開しようというのではない。価格を人工的に決めるのであるから、歪みは当然のごとく生じる。重要なのはそれを修正する方法にある。

 今までは、ポリティックパワーのバランスで医療の価格が決まってきた。今後は透明性、客観性に裏付けられた、エビデンスに基づいた“価格”決定方法を生み出していくべきであろう。今こそ医療経済学、薬剤経済学の再構築に、人・金・物をつぎ込むべき時期ではないのか。 



‐AD‐

同じカテゴリーの新着記事

薬剤師 求人・薬剤師 転職・薬剤師 募集はグッピー
HEADLINE NEWS
ヘルスデーニュース‐FDA関連‐
新薬・新製品情報
人事・組織
無季言
社説
企画
訃報
寄稿
新着記事
年月別 全記事一覧
アカウント・RSS
RSSRSS
お知らせ
薬学生向け情報
書籍・電子メディア
書籍 訂正・追加情報
製品・サービス等
薬事日報 NEWSmart
「剤形写真」「患者服薬指導説明文」データライセンス販売
FINE PHOTO DI/FINE PHOTO DI PLUS
新聞速効活用術