日本における医療機器分野の開発環境は、医薬品と異なって未だ発展途上の段階にある。得意とする画像診断機器はまだしも、治療機器に関しては多くが輸入品という有様だ。しかも、日本固有の事情によって治験が進まないため、欧米はおろかアジア各国で使用されている先端医療機器が、先進国であるはずの日本に普及せず、患者がその恩恵を享受できない状況に陥っている。
先ごろ、医療技術産業戦略コンソーシアム(METIS)の医療テクノロジー推進会議が開催され、前回までに提示されていた重点7テーマごとの医療機器開発の方向性、具体的戦略の提言がまとめられた。
重点テーマは、ゲノム科学・蛋白質科学やIT技術等を活用した遺伝子チップの簡易診断機器をはじめ、画像診断機器の高度化、DDS分野の技術を活用した分子イメージングによる診断・治療、超音波関連装置やカテーテル等の医療機器を用いるDDS・標的治療などだが、中でも産官学が連携して「DDS」「分子イメージング」「薬剤」を一体化させた連携体制の構築を提言している点が注目される。
また、医療機器のメリットを発揮するため、内視鏡手術ロボットなどの高機能手術ロボット、画像技術を活用した低侵襲治療機器の開発も重点に挙げられているほか、次世代除細動器等のバイオニック医療機器、完全埋め込み型人工心臓等の臓器機能補助機器、骨・軟骨、血管、心筋等の再生医療など、早期開発と実用化・商品化が可能なものを提言している。
そもそもMETISは、2000年4月の「国家産業技術戦略」で、医療機器産業の重要性と、国際競争力強化の必要性が謳われたことに端を発し、産官学が一体となって医療機器開発に取り組む姿勢を明確に示すため発足した。一昨年からスタートした第II期METISは、4回目の医療テクノロジー推進会議で具体的な戦略提言をまとめた。
今後、提言内容の実現を目指していくことになるが、その道は必ずしも平坦ではない。医療機器開発は、専門メーカーと医師が共同して進められる。ところが責任回避ではないのだろうが、健康・生命に関わる治験段階になると、方法や効果判断、審査方法などの不明瞭さなども原因して、開発から手を引くことが間々あると聞く。この壁が、日本と海外とで大きく違うところだ。
共同議長を務めている日本医療機器産業連合会(医機連)の和地孝会長は、医療機器開発が日本では長年、医薬品開発の延長線と捉えられていたことに異議を唱え、医療機器のための舞台が必要だと訴え続けてきた。
どこの大学病院にも薬剤部はあるが、医療機器部を設置している病院は数少ない。今回の提言は、医療機器開発に対する意識改革と、インフラ整備に向けた意味合いも持っている。
今年1月には、医機連とMETISが共催して、第1回医療機器市民フォーラム「見つかる、治る!最新の医療:ここまで来た!人にやさしい医療」を開催し、多数の参加者を得た。
内視鏡手術などの新技術が確立し、低侵襲、低コストという患者のためになる新しい治療法が普及してきたが、その実現に対する医療機器の貢献は計り知れない。“技術立国・技術大国ニッポン”の名に恥じぬよう、国民の理解得ながら、日本発の革新的医療機器が開発され、早期に実用化されることを大いに期待したい。