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6月1、2日に仙台で第55回日本化学療法学会総会”総会長に聞く

2007年05月25日 (金)

総会長 渡辺 彰氏(東北大学加齢医学研究所教授)に聞く

■化学療法学のブレイクスルーに向けて”耐性菌・適正使用を再考する”

渡辺 彰氏
渡辺 彰氏

 第55回日本化学療法学会総会が6月1、2の両日、「化学療法学のブレイクスルーに向けて―耐性菌・適正使用を再考する」をテーマに、仙台市の仙台国際センターで開かれる。かつて日本の抗菌薬開発は世界をリードし、抗菌化学療法の全盛期を支えてきたが、最近は開発治験が停滞し、新たな抗菌薬が見出せなくなってきている。臨床現場では、耐性菌対策、抗菌薬の適正使用が強く叫ばれながら、有効な対策について明確な回答は得られていないのが現状だ。こうした状況を打破しようと、今総会では、抗菌化学療法を取り巻く諸問題の解決に向けたブレイクスルーにつなげることが大きな目的とされている。そこで、総会長を務める渡辺彰氏(東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発研究部門教授)に、今回の見どころなど総会の話題を聞いた。

■抗菌薬開発の停滞打破へ向け議論

 ――総会開催に当たって、ベースになる考え方をお話しいただけますか。

 渡辺 私は最近、化学療法学、抗菌薬の研究・開発が、やや行き詰まっているのではないかと感じていました。特に化学療法学会は、新しい抗菌薬の開発治験を基礎・臨床の両面から担うことが大きな目的です。そこで今回は、「化学療法のブレイクスルーに向けて―耐性菌・適正使用を再考する」をテーマに掲げ、抗菌薬開発、抗菌薬療法の行き詰まり感をどうやって打ち破るか議論することを大きな目的としました。プログラム編成もテーマに沿った内容を用意しており、特にシンポジウムでは、様々な観点でブレイクスルーに向けた試みを議論していただくことになっています。

 具体的には、シンポジウム1「抗菌薬療法とPharmacogenomics―開発から臨床へ」において、ファーマコゲノミクスという新しい方法論を取り上げ、基礎的な抗菌薬開発から適正使用まで、いかに活用できるかを探っていただきます。このシンポジウムは、開発から臨床への橋渡しをするという、化学療法学会の役割としては入り口の部分と言えます。

 また、シンポジウム2「抗菌薬臨床開発のブレイクスルーを求めて―海外展開をどうリードするか?」は、まさにテーマと合致した内容で、海外での抗菌薬開発の方向性を、実際の開発現場、規制当局、医師の立場からお話ししていただきます。治験の空洞化が叫ばれて久しく、抗菌薬開発も例外ではないわけですが、だからと言って、新しい抗菌薬の開発を停滞させることはできません。

 治験を海外で行うにしても、日本が開発をリードすれば良いのであって、現実に中国など東アジアで開発を進めている製薬企業もあります。そうした実際について、苦労話を含めたお話をシンポジウムで報告していただき、今後どうすれば日本が抗菌薬開発の世界展開を再びリードできるか議論していただければと思っています。

 ICD講習会を兼ねているシンポジウム3は、「院内感染対策における耐性菌対策と適正抗菌薬療法―これまでの常識を見直す」と題して、実際に臨床現場で常識と考えられてきた治療法、感染対策が本当にいいのかという部分を議論していただきます。

 例えば、昨年のイギリス化学療法学会誌に、抗菌薬の使用制限やサイクリング療法、ローテーション療法は、逆に耐性菌を増やすと結論づけた論文が掲載されました。これまで耐性菌を増やさないためには、抗菌薬の種類を制限したり、定期的なローテーションを行った方が良いとされてきましたが、論文では全く逆の考え方が示されたわけです。どうして推奨されてきた方法で耐性菌が増えてしまうのか、ぜひ考える機会にしていただければと思っています。

 私も感染症の治療に当たっては、全てサイクリング療法、ローテーション療法と型にはめるのは好ましくないと考えます。やはり一人ひとりの患者さんに対し、きちんと考えて抗菌薬を選び、投与量も投与期間も考えるべきだと思っています。

 最近増えているガイドラインについても、使い方があると思います。様々なガイドラインは、標準的な治療法を広く普及させる狙いがあるわけですが、一方で、ガイドラインに沿った画一的な治療法しか行われなくなる可能性も危惧されます。

 日常診療では、ガイドラインばかりに頼ってもらっては困るわけです。やはり患者さんごとに自分で治療法を考えて、それが正しいかどうか参照するときにガイドラインがあるのだと思います。こうしたことも、シンポジウムでは議論していただければと考えています。

 このように、シンポジウムでの発表、議論を通じてよく考えていただき、化学療法学、抗菌薬開発の行き詰まっている部分を何とか打破するきっかけにしたいという思いが、今総会の大きな考え方になっています。

■“歯周内科”を提案”薬剤師との連携も焦点

 ――ワークショップについては、どのような内容を取り上げていますか。

 渡辺 ワークショップでは個別の問題を取り上げました。一つは「マクロライド少量長期投与療法の現状と将来展望」ですが、これは日本からエビデンスが発信されてきたこともあり、最新情報を踏まえながら、今後どのような展開があるのかといった方向性が示されるのではないかと思います。

 これまで院内感染については、シンポジウムなどで取り上げられてきましたが、市中感染症の話題は少なかったと思います。そこで、ワークショップ「外科系市中感染症の化学療法を再考する」では、敢えて市中感染症を取り上げ、しかも外科系の話題で企画しました。

 同じようにワークショップ「歯周内科への道を探る―抗菌化学療法の新しい役割」も、非常に目新しい話題ではないかと考えています。これまで歯科領域では、口腔外科の医師が抗菌薬を使ってきました。しかし、抗菌化学療法が進歩してくると、外科的な処置に加え、抗菌薬を使って内科的に治療できる部分が広がってきています。そこで、ワークショップでは、“歯周内科”という新たな領域を提案していることがポイントになっています。

 もう一つは、「適正抗菌薬療法に対する医師と薬剤師の連携」を取り上げ、感染対策の現場で活動する薬剤師にもスポットを当てました。化学療法学会の会員は、多くが医師ですが、最近は感染制御専門薬剤師が誕生し、薬剤師との関わりも重要になってきています。ワークショップでは、医師と薬剤師の立場から、それぞれ実際の連携の取り組みが紹介されます。

■新薬シンポ、安全性を重視

 ――化学療法学会の大きな特徴となっている新薬シンポジウムはいかがでしょうか。

 渡辺 新薬シンポジウムでは、ガレノキサシン(T‐3811)を紹介します。特に今回はキノロン薬で、日本が最も開発を得意としている抗菌薬でもあります。そのため、安全性について十分に知っていただきたいと考え、2人の演者に安全性の報告をお願いしています。

 また、イブニングシンポジウムは、製薬企業との共催シンポジウムではありますが、テーマは全て私の方からお願いしたもので、企業色がないのが特徴となっています。実際にイブニングシンポジウム1は、PK/PDシンポジウム「PK/PDに基づく感染症治療の実際」として企画しており、昨年の基礎編に引き続き、臨床編として行われることになっています。もう一つが外来化学療法シンポジウム「市中肺炎外来治療における抗菌薬適応の見極め」で、使用薬剤の選択からスイッチ療法の可否まで、しっかり考える場にしていただければと思っています。

 さらに今回は、抗MRSA薬適正使用シンポジウムを4社共催で行っていただくことにしました。ちょうど、厚生労働省から化学療法学会と感染症学会に依頼のあった「抗MRSA薬使用の手引き」が出されたことから、手引きを取りまとめた北里大学の砂川慶介先生に司会をお願いし、基礎、臨床、感染制御などの立場から、適正使用の注意点をお話ししていただくことになっています。

 そのほか、特徴としては、仙台市出身で赤痢菌を発見した志賀潔先生の記念・公開シンポジウム「赤痢菌発見110年:伝染病から輸入感染症・食中毒そして人畜共通感染症へ」を、総会前日の31日午後5時から、ホテル仙台プラザで開催します。赤痢菌の発見110年を機に、志賀潔先生の業績を振り返りながら、進化する赤痢菌の移り変わりへの対策を先人に学ぶことができればと考えています。

 少し盛りだくさんになってしまいましたが、今回は一般演題も163題と、多くの演題が寄せられましたので、私の意気込みを理解していただけたものと考えています。

■新しい作用機序の抗菌薬”常識にとらわれない視点を

 ――今回のプログラムは、抗菌薬開発のブレイクスルーを目指すと同時に、これまでの治療法を再考するという両面から企画されていますが、先生の抗菌薬開発に対する現状認識を聞かせて下さい。

 渡辺 日本の抗菌薬開発は、80090年代初めまでは世界をリードしてきました。ところが、ICHによる国際協調がスタートすると、これまで日本で実施してきた治験の進め方には、不備のあることが分かってきました。ICHの趨勢に合わせて、つまり新GCPに即して治験を行うとなると、多くの部分を改善する必要が出てきますから、日本で治験が進まなくなるのも当然です。

 その影響が非常に大きく、日本での治験が停滞してしまったわけですが、何とかその状況をブレイクスルーして、抗菌薬の開発を活性化したい。私が今回、ブレイクスルーを掲げたテーマを強調しているのも、そのためにどうすればいいかを考えたいとの思いがあります。

 ――新GCP施行後に上市された抗菌薬の数は、かなり少ないと思いますが。

 渡辺 確かに多くはありません。一つの理由は、安全性の面で挫折する薬剤が多いことが考えられますが、これは私たちの安全性評価のあり方に問題があったと言えます。同時に、せっかく開発された新薬でも、使い方を誤れば輝きを失ってしまいます。例えば、高用量を1回投与すれば効果のある抗菌薬を、日本では少ない用量で慎重に、しかも長期間だらだらと使っている。そうすると、効かないばかりでなく、耐性菌と副作用を増やすだけですから、そういう使い方をしてはいけないということです。

 ――これまで抗菌薬は、比較的治験段階でも安全性は高いと言われてきました。

 渡辺 β‐ラクタム薬を例に挙げると、大きくペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系の3種類と言えますが、特にセフェム系は過去に次々と薬剤が開発されてきており、もう新薬がなかなか見出せない状況になっています。そうなると、全く違う系統や作用機序を持つ抗菌薬を開発していく必要が出てきます。

 例えば海外では、最近登場したリネゾリドのように、全く新しい作用機序の抗菌薬が開発されていますが、残念ながら日本では、まだ新しい作用機序の抗菌薬を見出すには至っていません。その意味でもブレイクスルーが必要で、今までの常識にとらわれるのではなく、目を向けていなかった部分にも踏み込んで、そこから新しい抗菌薬を開発していく必要があります。

 ――その意味では、抗菌薬開発の海外展開という考え方も最近まで聞かれませんでした。

 渡辺 実は抗菌薬をグローバルで開発したり、アジアで共同開発しようという戦略は、最近出てきた考え方です。既にいくつかの製薬企業は、世界に目を向けた戦略で開発を進めていますので、そこはシンポジウムで詳しく紹介されるのではないかと思っています。幸い、抗菌薬領域は、会社が違っても開発マン同士は情報交換をしている分野といえます。やはり一つの企業で考えるのではなく、関係者が情報を共有し、お互いに日本が抗菌薬開発をリードするための知恵を出していかなければならないと思っています。

■患者ごとに治療を考慮”適正使用のポイントに

 ――盛んに叫ばれている適正使用の問題ですが、これについて先生の考えを聞かせて下さい。

 渡辺 本来は、患者さん一人ひとりに対して、適切な治療を考えなければいけないわけですが、ガイドラインなどの指針があると、どうしてもそれに頼ってしまいがちです。ガイドラインには常識が書いてあるわけですが、それだけで日常診療がうまくいくわけではありません。「適正使用を再考する」とテーマに掲げていますが、そこに込めた思いは、ちゃんと一人ひとりの治療を自分で考えてほしいということです。

 そのとき手立てになるのが、抗菌薬削減の可否や、サイクリング療法/ローテーション療法の是非などであり、その判断を自分で考えることが必要だと思っています。

 実際、サイクリング療法を行っても、みんなが同じ抗菌薬を一定期間使うため、耐性菌の増加が危惧されます。しかし逆に、多くの患者さんを医師一人で診ているような場合は、抗菌薬の処方がワンパターンとなりがちで、むしろローテーションをした方が良いわけです。

 このように、サイクリング療法にしても、目の前の患者さんに必要かどうかを考えることが重要で、その意味から言えば、シンポジウムでは様々な考えをぶつけ合う激しい議論を期待しています。

■教育講演で問題提起

 ――教育講演については、どのように企画されていますか。

 渡辺 教育講演は、全て私からお願いした内容で、どちらかというと多くは問題提起になっています。「抗HIV治療:次のブレイクスルーは何か?」「小児感染症の化学療法―今後に向けてのブレイクスルーとは?」は、テーマに即したお話が聞けると思いますし、「細菌学的見地から嫌気性菌と呼吸器感染症を考える」は、嫌気性菌の重要性があまり注目されていないことを受けて取り上げています。

 ――特別講演についてはいかがでしょうか。

 渡辺 特別講演は、慶應義塾大学の相川直樹先生に「重症セプシスに対する新規薬物療法の展開」と題してお話しいただきます。特に相川先生からは、抗菌薬にとどまらず、ステロイド大量療法や抗TNF療法まで、重症セプシスに対する様々な治療法の挑戦が幅広く紹介されることになっており、ブレイクスルーに向けた実際例として参考になるものと思っています。

■「Q熱」テーマに会長講演

 ――ご自身がお話しする会長講演は、どのような内容になっていますか。

 渡辺 会長講演では、「Q熱の診断と化学療法」をテーマにお話ししようと考えています。呼吸器感染症におけるQ熱の実態は、日本ではほとんど明らかになっていません。しかし、海外では、Q熱が市中肺炎を起こす原因菌の一つであることが分かっていました。

 私たちも10年ほど前からサーベイランスを始めたところ、やはり海外と同じぐらいの頻度でQ熱が発生していました。それがQ熱と分からないままだったということです。Q熱は、急速に重症化しますが、治るのも早いために気がつかないことが多く、診断が非常に難しいことも背景にあると思います。いったんQ熱と診断さえつけば化学療法は簡単で、テトラサイクリン系、マクロライド系、キノロン系抗菌薬がよく効きます。

 Q熱は、学会で取り上げられる機会も少なく、研究者も少ないために、数年前までは教科書に「日本にはQ熱はない」と記載されていたぐらいです。Q熱にかかると、インフルエンザに似た症状を起こしますが、無治療でも死亡率は203%で、102週間で免疫ができると軽快します。

 ただ、知らない間に見逃されているケースがたくさんあります。私はいつも季節外れのインフルエンザ様症状と言っていますが、高熱、関節痛、倦怠感、食欲不振など、インフルエンザと非常に似た症状を示します。Q熱を知らない方は非常に多いですから、会長講演の場を通じて、話題提供できればと思っています。

 ――最後にメッセージをお願いします。

 渡辺 今回は、プログラムのかなり多くの部分を自分で企画させていただきました。興味ある内容を用意しつつ、問題提起もしているつもりですので、ぜひ多くの方々に参加していただき、抗菌薬開発や適正使用を考える機会にしてほしいと思っています。



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