保険薬局が「昔の薬局へ戻れ」と叱咤され続けて久しい。気軽に健康相談できる拠点となれ、一般用医薬品をもっと置け、在宅医療に関与せよといった具合で、薬局に求められる社会の要求は、日に日に大きくなっている。
厚生労働省も予算事業で、薬局を活用した「健康ナビステーション(仮称)」を整備するため、一般薬を含め全ての医薬品の供給拠点にふさわしい基準を作るとしている。備えるべき一般薬の品目数などが設定される模様だが、現在の保険調剤に重きを置いた姿のまま、一般薬を置いたからといって地域住民が薬局を訪れるかといえば、そんな単純な話ではない。
在宅医療についても同様であり、地域包括ケア時代への対応が求められているが、まだ薬剤師の関与は少ないのが現状で、ほとんどの活動は訪問薬剤管理指導にとどまる。こうした中、医師、看護師などの多職種チームと連携するためのツールとして、口腔ケアに注目したい。
2014年度診療報酬改定でも、かかりつけ薬局の姿として、在宅医療に必要な医療材料・衛生材料を供給する役割が重視され、薬局で販売できる医療材料が追加されたほか、衛生材料を供給できる体制が「基準調剤加算2」「在宅患者調剤加算」の算定要件とされた。
ここから一歩踏み出し、昔の薬局に戻る意味では、在宅で必要となる歯ブラシ、スポンジブラシ、洗口液、口腔保湿用ゲルを販売し、保険調剤以外に取り組みを広げるきっかけにできないだろうか。医薬品医療機器等法は、保険薬局で医薬部外品、化粧品等の販売を認めており、医療現場で使う物品を提供するのも薬剤師の重要な役割となる。
ただ、口腔ケア製品のほとんどはドラッグストアで入手できることが多く、介護用品に近い位置づけとなるため、薬局での販売に当たって患者ニーズとコストの問題も無視できない。それでも、口腔ケア製品に関する情報をもらったり、提供することを通じて看護師等の多職種と連携し、材料の供給拠点となるだけでなく、結果的に在宅医療への関与につながる可能性も開かれる。
もう一つは、医薬品が口腔乾燥の原因になっている事実があり、高齢者で数種類の薬を服用していれば、何らかの口渇が起きてもおかしくないとされる。その結果、唾液の分泌能が低下し、味覚が変化したり、噛み合わせが悪くなるなど、患者に様々な障害が出てくる。こうした知識は、在宅で薬剤師の存在感を出せる部分となろう。
薬局も調剤だけでは生き残れない厳しい時代が目前まで来ている。診療報酬改定を見ても、国の方向性は地域包括ケアに向け、調剤偏重からの脱却へ動き出しており、この流れは加速することはあっても止まることはない。遅かれ早かれ、調剤以外の収入源が重要なカギになってくるのは間違いない。
その一つとして、口腔ケア製品を介在させることが昔の薬局への回帰、在宅への関与につながるヒントになるのではないか。