かかりつけ薬剤師の機能向上に
全国10地域で試験サービスを展開しているソニーのカード型電子お薬手帳サービス「harmo(ハルモ)」。その地域のひとつ、滋賀県薬剤師会は昨春「harmo」の本格的な導入に踏み切った。薬剤師や薬局の機能を充実させるために電子お薬手帳は欠かせないと考えたからだ。各種電子お薬手帳を比較した上で「harmo」を選定。現在、滋賀県薬の約半数の会員薬局が導入している。「harmo」にはどのようなメリットが期待でき、かかりつけ薬剤師として役割を発揮するためにどのように役立つのか。現地の薬局薬剤師に話を聞いた。
「簡単に情報を連携できる上に、情報漏洩リスクは小さい。データの信憑性は高く、将来の機能拡張性にも期待できる」。滋賀県薬の常務理事で薬局機能充実特別委員会の委員長、村杉紀明氏(みのり薬局)はharmoを選んだ理由をこう語る。
harmoはクラウドとICカードを使って調剤情報など様々な情報を共有することが特徴だ。患者は薬局店頭の専用端末にICカードをタッチするだけで利用できる。薬局で入力された情報がそのまま反映されるため、データの信憑性は高い。
一方、患者自身も自分のスマホに専用アプリをインストールすればいつでも調剤履歴を確認できる。さらに、スマホを持たない患者もICカードのみで利用でき、幅広い患者の情報共有が可能だ。個人を特定する情報はICカードに、調剤情報はクラウドに分離する仕組みが採用され、患者のプライバシーに対する安全性は高い。
同委員会は、滋賀県薬の新会長に就任した大原整氏の肝いりで2014年に発足した。活動の一つとして、電子お薬手帳の推進に取り組むことを決定。各種電子お薬手帳の中からharmoを選定し、14年10月から3年間の推進事業を開始した。
これを受け昨春約40軒の会員薬局にharmoが導入された。昨秋には追加募集を行い、導入薬局は約200軒に拡大した。今春の追加募集によって導入薬局は会員薬局の半数に相当する約250軒に増える見通しだ。
滋賀県の利用者数は現在約1万人。来年3月までに滋賀県人口の1割に相当する14万人の利用を目指す。滋賀医科大学病院では既に入院支援室と薬剤部に配置されており、滋賀県医師会や病院団体などへの働きかけを続けて、各地の病院や診療所でのharmo端末の導入を進める計画だ。利用可能な薬局や医療機関が増え、利用者が増えるほど共有できる調剤情報は拡充し、harmoのメリットは強まる。「人口の1割が使うとなれば医療機関の関心も高まり、導入が進む」と村杉氏は期待する。
個々の薬局での利用者増は、高いハードルではなさそうだ。みのり薬局では投薬時にパンフレットを渡すほか、「時間に余裕がある時には患者個々にアプリを見せながら数分間メリットを説明すると、7割くらいの患者さんが利用に同意する」(村杉氏)。利用者は現在約1000人に達した。1日約120人が来局。その3割がharmoを使用している。
同委員会の委員の1人、岡林陽介氏が勤務するひまわり薬局近江八幡店も約1000人の利用者を確保した。1日70~80人が来局し、その3~4割が利用している。
「昨年12月頃から勧誘に力を入れ始め、患者さん1人ひとりにできるだけ声をかけて説明した。忙しい時でもパンフレットを渡すようにしたら、飛躍的に増加した。利用患者層に偏りはないが、子どもを持つ親には比較的スマホにアプリを入れてもらいやすい。最近は、他の患者さんが来局時に店頭でカードをタッチする姿を見て、自分も使いたいという人も増えてきた」と岡林氏は語る。
調剤情報をリアルタイムに共有
harmoの様々なメリットの一つとして2人は、患者の調剤情報をリアルタイムに共有できる機能に注目している。患者から指定された家族や医療・介護従事者らは、調剤情報や患者が入力した副作用情報をスマホのアプリを通じて閲覧できる。薬剤師を共有相手に指名してもらうことも可能だ。
岡林氏は「その患者さんを見守る人が増える」と評価する。最近、滋賀県薬のある会員薬局は、患者の代理人から院外処方箋を応需し、前回の情報が分からないために、バルプロ酸顆粒剤の用量を医師の意図通りに読み取れなかったインシデント事例を経験した。医師の記載が慣例から逸脱していたため、通常の対応では気づきにくい事例だった。「harmoによって代理人が情報を共有していれば、こういう事例を防ぐことができた」と岡林氏は振り返る。
村杉氏も「薬局から離れた場所で患者さんから電話がかかってきた時に、この機能を活用して薬剤師は、飲んでいる薬を正確に把握した上で対応できる。また、コメント欄を活用し、どんな問い合わせがあったのか、どんな指示を出したのかを、その場で記録できる。harmoはコミュニケーションツールになり得るし、かかりつけ薬剤師の役割を果たしやすくなる。harmoを通じて24時間見守ることを説明すれば、かかりつけ薬剤師指導料も算定しやすくなるのではないか」と強調する。
harmoを導入する薬局はタブレット端末で、過去の調剤履歴と今回の処方内容を一画面で比較できるほか、受診頻度も時系列表示で感覚的に把握できる。「普段は病院にあまり罹っていないなど、その患者さんの医療との関わり方をざっと知ることができる価値も大きい。患者背景を詳しく把握できるツールになる」と村杉氏は語る。
一方、患者側も「harmoの活用によって薬に対する意識が各段に高まる」(村杉氏)。薬局で入力された情報はすぐharmoに反映されるため、スマホを持つ患者はすぐに受け取った薬の情報を把握、確認できる。
このほか「災害時や容体急変時にも役立つ可能性がある」と岡林氏は期待を語る。緊急時に、紙のお薬手帳やスマホ型電子お薬手帳を携帯している人に対しては薬の情報を即時に把握して医療に活用できるが、災害時や容体急変時にこれらを持っていない人については、薬の情報をすぐに把握しづらい。携帯性に優れるカード型のharmoを、医療機関受診時だけでなく、財布などに入れて常に持ち歩いてもらえれば、そんな人でも緊急時に薬の正確な情報を把握しやすくなることに岡林氏は期待しているという。
(おわり)
目次
- 【ソニー】お薬手帳サービス「harmo(ハルモ)」を通じヘルスケア領域の情報インフラ構築へ [1](2016年1月29日)
- 【ソニー】お薬手帳サービス「harmo(ハルモ)」を通じヘルスケア領域の情報インフラ構築へ [2](2016年2月26日)
- 【ソニー】お薬手帳サービス「harmo(ハルモ)」を通じヘルスケア領域の情報インフラ構築へ [3](2016年3月30日)
- 【ソニー】お薬手帳サービス「harmo(ハルモ)」を通じヘルスケア領域の情報インフラ構築へ [4](2016年4月15日)