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災害に柔軟に対応する医薬品業界

2016年05月20日 (金)

 久しぶりに嫌な鳴き声を聞いた。グェッ、グェッ、グェッと聞こえる緊急地震速報だ。当然のことだが、マナーモードにしていても勝手に鳴く。5年前から、この声を聞くと反射的に心身ともに強ばってしまう。よだれは出ないが、「パブロフの犬」状態である。

 北方四島を含めた北海道から沖縄、遙か彼方の沖ノ鳥島、南鳥島まで日本に地震が発生しない場所は存在しない。地震が起きないと信じられている場所も、有史以降に発生していないか古文書に残っていないだけである。常に動いている四つのプレートの上にあって、2000以上と言われる活断層が全国にくまなくあるのだから、日本に住む以上、地震はもはや宿命だと言える。

 遅くなったが、熊本地震でお亡くなりになった49人のご冥福を祈念すると共に、残された1人の行方不明者が一日も早くご家族の元に戻られることを願う。現在、被災者が日常生活に戻るため、復旧と復興に国を挙げて全力で取り組んでいるところだが、落ち着く様子が見えない余震が邪魔をして遅々として進まないのが現状だ。

 水・食糧、電気などと同じく、生命をつなぎ健康を維持するために不可欠なのが医薬品である。水質の良い熊本には製薬企業の工場も多く、今回被災してしまったが、人的被害はなかったようで不幸中の幸いである。

 先月、人工腎臓用透析剤のパイオニアを自負する扶桑薬品の茨城工場第2製剤棟を見学した。奇しくも熊本地震の前震が起きた翌日だった。大阪のメーカーなので大阪はもちろんだが、岡山、そして関東の茨城にも工場を持っている。分散した理由は、どこかの地区で震災に遭遇しても、患者が待っている透析剤の安定供給を続けるためにほかならない。このポリシーには頭が下がる。

 工場の紹介では、海岸線から何km、海抜何mと書かれている。沿岸部にある拠点は、まず津波にのまれる危険を回避することが5年前から必須条件になった。

 今では社会インフラとして認識されている医薬品流通を担う医薬品卸だが、九州エリアでは全国でも珍しく独立系地元卸が強く、今回の震災でも医薬品の安定供給に奮闘している。

 新設された卸の物流センターも、沿岸から離れるか、ある程度の標高を確保し、地盤の強固さ、建物の免震・耐震構造、72時間自家発電装置などは必須となった。あの『3.11』を境に、メーカー、卸の建築・設備基準は一変した。

 公的バリデーションはないが、それぞれが持っている社会的使命を遂行するためには、絶対に欠かすことができない要件になった。

 常に自然災害という脅威に晒される日本では、教訓を随時生かした的確な変化が求められている。国民の生命・健康に直結する医薬品業界ではなおさらだ。



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