降圧薬は、「治療に対する薬剤の貢献度」「治療の満足度」が共に95%以上のマックス状態にあり、さらなる開発の是非が問われている。
その一方で、4000万人と推定されるわが国の高血圧患者のうち、その半数が降圧薬を服用しており、降圧薬を服用しても降圧不十分な患者数は約1000万人に上ると想定されている。
さらに、3種類以上の降圧薬を服用しても降圧目標に達しない“治療抵抗性高血圧患者数”が、依然として10~15%の頻度で存在するようだ。こうした状況から、既存の降圧剤に加えて、新規降圧薬の開発は未だ避けて通れない。
では、今後、どのような降圧薬の開発が望まれるか。降圧治療の目的は、高血圧性臓器障害(腎障害、心不全など)の予防・進展抑制にあるのは言うまでもない。
これらの病態の発症・進展においては、これまで、神経体液性因子の重要性に着目された。特に、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA系)や交感神経系など増悪因子の活性化の意義が示されてきたため、今後の降圧薬開発でも、血圧降下はもとより臓器保護の有無が重視されるのは間違いない。
これらの条件に合致する新しい降圧剤として、ACE2賦活薬/Mas受容体刺激薬、ARN阻害薬(ARNi)、エンドセリン遮断薬、アルドステロン合成・分泌抑制薬の開発が注目されている。
ACE2/Angl-7/mas系は、血管内皮保護、心不全抑制、腎機能改善など様々な心血管病抑制効果だけでなく、腸内細菌安定化にも寄与している。加えて、今問題になっているフレイル、サルコペニア、認知症といった老年症候群への関与も示唆されている。
だが、現状のACE2/Angl-7/mas系に関与する化合物は、臨床試験で大きな降圧効果が得られていないため、降圧薬としてのACE2賦活薬の必要性は低いが、臓器保護薬としては高い。
Mas受容体刺激薬は、ARBとの相性が非常に良く、合剤の形での開発が望ましいようだ。
RAA系のProtective Armの一つであるARNiは、腎臓、心臓などの臓器障害に対して保護作用を有する可能性があり、新規の降圧・心不全薬としての今後の臨床応用が待たれる。
現在、臨床現場で肺高血圧症を適応疾患に投与されているエンドセリン遮断薬は、さらに強力な活性を持つ薬剤が開発されれば、高血圧の治療薬として使える可能性が高い。
一方、肥満高血圧患者では、レニン-アンジオテンシン系(RA系)とは独立した脂肪細胞由来の未知の液性因子が直接副腎に作用することでアルドステロン合成・分泌を促進し、高血圧を惹起する可能性が指摘されている。特に、既存の降圧薬で血圧コントロールがうまくいかない肥満高血圧患者には、アルドステロン合成・分泌抑制薬の開発が望まれる。
これらの薬剤の開発が順調に進捗し、高血圧性臓器障害の予防・抑制に貢献することを期待したい。