警察庁によると、昨年の薬物事犯の検挙人数は1万3524人でほぼ前年並みであったが、大麻事犯は前年比19.3%増の2101人となり、5年ぶりに2000人を超えたという。大麻事犯の検挙人数が増加した背景としては、若年層による大麻の乱用傾向が増加していることがある。
また近年、合法ハーブ、アロマ、お香などと称して販売される危険ドラッグの蔓延も問題となっているが、こちらは昨年7月には街頭店舗が全て閉鎖となったほか、危険ドラッグの使用が原因と疑われる死亡事案が大幅に減少するなど、その対策に一定の効果が見られる。だが、インターネットを利用して密輸・密売されるなど流通ルートの潜在化も見られ、引き続き警戒が必要なのは言うまでもない。
先月、東京都の薬物乱用防止関係功労者知事感謝状贈呈式が都庁内で行われたが、席上、東京都薬物乱用防止推進協議会の石井明会長は「ハチドリの一滴(ひとしずく)」(南米アンデス地方に昔から伝わる話を明治学院大学国際学部教員の辻信一氏が訳した短い話)を引用し、あいさつを行ったのが、非常に印象に残った。
どのような話かというと、森が燃えていて、森の生き物はわれ先にと逃げていく。そうした中で、ハチドリだけは行ったりきたり、くちばしで水のしずくを一滴ずつ運んでは火の上に落としていく。それを見て動物たちは「そんなことをして一体、何になるんだ」と笑うが、そのハチドリは「私は私にできることをしているだけ」と答える──というもの。話の内容は書籍にもなっており、最近は地球環境保護の面から感銘を受ける人が増えているようだ。
国と都道府県では薬物乱用啓発運動の一環として、「薬物乱用防止指導員」制度を設けている。覚せい剤等の薬物乱用が全国的に蔓延し、しかも一般家庭にまでも深く浸透しつつある状況に鑑み、各地域社会に根ざした啓発活動を展開するため、約37年前から推進しているもので、各都道府県知事から委嘱された指導員は積極的な地域活動を行っている。
「薬物というものは1回入り込んだら泥沼で、脱けきれない。薬物乱用というものは本当に“消しても消しても消えない”ものだが、今後も指導員の皆さんとオリンピックに向かって、東京が世界一立派な薬物乱用のない国と言われるよう頑張っていきたい」と述べた石井氏。薬剤師として薬局経営の一方で、東京都薬物乱用防止指導員としての活動を長年続けている努力には敬意を表するしかない。
先の日本薬剤師会学術大会では、薬局・薬剤師が発信源となって、薬物乱用防止に関する情報を今まで以上に地域で広めるべきとの期待を込めた発表も見られた。薬物乱用防止に向けた啓発活動は目に見えにくい部分だが、“健康サポート”の取り組みと同様に、ぜひ積極的な参画も望みたい。