19日の中央社会保険医療協議会総会で、医師の処方権と薬剤師の調剤権をめぐり、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)と診療側の中川俊男委員(日本医師会副会長)が激しい議論を繰り広げた。
ことの発端は、今月10日に名古屋で開かれた日本薬剤師会学術大会での幸野氏の講演だ。「医師の処方権と薬剤師の調剤権を同等にしたい」といった発言や、医療費抑制の観点から、リフィル処方箋の導入などを提案したことを中川氏が問題視し、その真意を質したことから議論が過熱した。
このような考え方や提案は、同じ診療側から出てくるもので、支払側から出てくるのは珍しい。それだけ、薬剤師にしっかり仕事をしてもらいたいという期待の表れなのだろう。
その期待に対し、この日の中医協での安部好弘委員(日薬常務理事)の発言は、「調剤権の拡大ではなく、薬剤師が調剤する上で、どんな義務を負っているのかを考えていくことが必要。医師の負担軽減が重要視される中で、医師と薬剤師がお互いの理解と連携の中で、それぞれが機能を発揮する、役割を果たすことが求められている」というものだった。中川氏は、すぐさま、「安部委員の言うように、まずは薬剤師の責任を果たすことに尽きる」と評価した。
政治的な配慮が働いていたとは考えたくない。ただ、一つ危惧しているのは、幸野氏の考えが変わってしまい、「もう薬剤師に期待するのはやめよう」という状況に陥ってしまうことだ。
何も、あの場で日医と喧嘩してもらいたいとは思っていない。ただ、「自分たちにはこういう権限があって、こういうことはできます。そのためにも、かかりつけ薬剤師にしっかり取り組んでいきたい」といった趣旨の発言はできたはずだ。
それにしても、患者が求める薬剤師像とは何なのか。“医師の負担軽減という観点からも、薬のことなら専門家の私たちに、ある程度のことは任せてください。もちろん責任も負いますから……”こんな責任と覚悟を持った薬剤師ではないだろうか。
幸野氏は、日薬学術大会の講演で、エールを贈る一方で、医薬分業が歪んで拡大した結果、薬剤師職能とセルフメディケーションを失ったことを憂いた。
かつて、次世代を担う薬剤師が存分に職能を発揮できるような環境を整えるため、身を粉にして医薬分業という井戸を掘った先達の薬剤師がいた。その井戸の水を当たり前のように飲む中で、もう一度胸に手を当てて考えてもらいたいことがある。「本当に、先達が思い描いた医薬分業になっているのだろうか」と。
いずれにせよ、次期診療報酬改定で薬剤師の役割が議論の対象になる可能性が出てきた。その前提となる、かかりつけ薬剤師の普及、患者満足度調査の結果は、これまで以上に重要性を帯びてきたといえる。本気の姿を見せてほしい。