武田薬品がアイルランドのシャイアーを7兆円で買収する手続きが完了した。“新生タケダ”は、米ニューヨーク証券取引所への上場も果たし、名実共にグローバル企業となったと言えよう。
その直前、2019年の幕開けを迎えた新年早々に、米ブリストルマイヤーズ・スクイブ(BMS)が米セルジーンを約8兆円での買収に合意したとの電撃的な発表があった。血液癌に強いセルジーンを買収することで癌領域を強化するのが狙いとされ、特に癌免疫療法薬では、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法やT細胞療法を獲得。BMSとセルジーンの両社合算売上も約3兆6000億円程度に達し、武田と同じく世界トップ10入りは確実の情勢である。
ウェバー社長は、この買収劇を引き合いにシャイアー買収の意義を強調。自らの決断の正しさを主張する格好の材料を得て自信を深めたに違いない。
これが世界の製薬業界の現実なのだろう。武田のシャイアー買収をめぐって創業家の反対が最終局面で表面化したが、財務リスクが大きすぎるとの懸念に対し、シャイアー買収以外の選択肢が示されることはなかった。武田のパイプラインを考えれば、足下の新薬が不可欠だったのは自明の理。新たな技術を活かした創薬が台頭している中、動きの激しいグローバル市場でリスクを覚悟することはどの会社にも求められている。それを示した一つがBMSによるセルジーン買収だったと言えるだろう。
振り返ると、ちょうど10年前の09年1月に米ファイザーが米ワイス(当時)を約6兆円で買収すると発表。超弩級の買収劇と話題になった。この時の狙いはバイオ医薬品とワクチンで、主力製品の関節リウマチ治療薬「エンブレル」などを手中に収めた。
それから10年、一時メガファーマによる水平型M&Aの時代は終わったとの見方もあったが、形を変えて当時を上回る新たな巨額買収劇の時代に突入した感がある。その特徴は買収する企業の中身である。
全世界で鎬を削る研究開発のトレンドと連動し、グローバル市場では、最先端の癌免疫療法薬、希少疾病治療薬などのスペシャリティー品目が格好の的になっている。加えて欧米各国の保険財政は厳しく、投資回収の難しさがさらに買収を後押しする。
言い換えれば、開発競争で勝てなければ、生き残りをかけて製品を手に入れなければならない。それが超弩級と言われた10年前の6兆円をも超える7兆円、8兆円といった巨額買収の世界になっている。
これが高いか安いか判断は難しいが、研究開発の動向からみれば、今後買収額が釣り上がることはあっても、下がることはないと見ていいのではないか。
世界の製薬市場は、未曾有の巨額買収が当たり前という新たな時代に突入している。逆に言えば、あっという間に苦境に陥る可能性がある極めて難しいビジネスになったということかもしれない。