医薬品の価値は多面的な視点で評価する――。そんな時代に入りつつあるようだ。行政側は、経済性を踏まえて医薬品の価値を評価する動きを推進。製薬業界側は先日、社会的価値を薬価に反映するよう求める方針を打ち出した。
医薬品の価値は主に、有効性、安全性という指標で評価する。その意義は今後も色あせないが、他の指標への関心が高まってきたのが現状だ。
特に近年は、高額医薬品の登場を背景に、その医薬品には費用に見合う価値があるのかという経済性が強く意識されるようになってきた。
医薬品の費用対効果評価の導入に向けた中央社会保険医療協議会での議論は2012年度から開始、16年度から試行的な導入が始まった。19年度からはいよいよ本格的な導入がスタートする。
ここでの評価は主に、その医薬品がQOLの向上と生存期間の延長にどれだけ貢献したのかを数値化し、薬価がそれに見合っているかどうかを判断するものだ。
先日の中医協では▽保険収載後の価格調整に費用対効果評価を用いる▽革新性が高く財政影響が大きい医薬品を対象とする▽最終的な薬価は、調整前薬価の10%または15%引き下げた価格を下げ止めとする――などの骨子案が示された。
まずはこの骨子で始まる見通しだが、その活用範囲は今後拡大する可能性がある。
製薬業界側も新たな評価軸を提案している。日本製薬工業協会はこのほど政策提言を発表。医薬品の社会的価値を薬価に反映するよう求めた。
提言の中で製薬協は「回復した患者の就労促進や介護者の負担軽減などによる労働生産性や経済性の向上、政策的に必要な医薬品の開発促進や医学・薬学の発展に寄与する場合などの社会的価値が薬価に反映される仕組みづくりが必要」と指摘。
具体的には、先駆け審査指定制度や稀少疾病用医薬品、条件付き早期承認制度適用品を対象にした「承認審査制度加算」(仮称)、小児や授乳婦、妊産婦、肝機能障害や腎機能障害患者に対する効能・効果を対象にした「特定集団/特定背景患者加算」(仮称)などの新設を求めている。
行政側、製薬業界側の動きはいずれも薬価での評価に焦点を当てたものだが、医療従事者も今後は、多面的な視点で価値を評価するという概念や評価の手法を柔軟に取り入れるべきだろう。
評価の切り口としてはほかにも服薬の継続性、デバイスの操作性など多数の指標が存在する。同種同効薬の中から院内採用薬を決めたり、目の前の患者に使用する薬を選択したりするなど、医療現場の様々な意思決定の場面で多面的な評価を活用してほしい。
それぞれの立場で医薬品の多面的な評価が進めば、社会や患者にとってより良い医薬品が選ばれ、使われるようになる。このことは業界の健全な発展や、質が高く効率的な医療の実現に役立つはずだ。