日本製薬工業協会会長 中山讓治
2021年の年頭に当たり、謹んで新年のごあいさつを申し上げます。
昨年、世界は新型コロナウイルスに席捲され、およそ7000万人の感染者と150万人の犠牲者を数える、まさに「パンデミック」の様相を呈しました。
感染症の収束に不可欠なワクチン・治療薬の開発には通常10年前後の時間が必要です。現在、国内でも製薬企業が開発に懸命に取り組んでいますが、欧米では先行してワクチンの実用化が始まりました。これらのワクチンは、これまでに使われたことがない新しい技術が用いられています。
先行する米国では、感染症対策を国の安全保障政策の一部と捉え、BARDA(米国生物医学先端研究開発局)がバイオテロなどの脅威や新興・再興感染症から国を守る安全保障政策として、世界の企業のワクチン、医薬品などの研究開発に継続的に資金投入しています。こういった平時の取り組みが感染拡大の非常時にワクチンの早期実用化を可能にしました。残念ながら、日本にはそのような体制がありません。
製薬協では、昨年6月に「感染症対策を国の安全保障として捉え、平時から有事までの感染症対策を統括する司令塔機能を設置し、国際連携を進めること」を提言しています。われわれ製薬企業の責務として、本年も足下の開発を加速すると共に、将来の感染症流行に備えた取り組みを進めていきます。
本年は中間年の薬価改定が実施されます。中間年改定については16年に「2年に1回の本改定を補完するもので、限定的に実施されるべき」という4大臣合意がなされ、19年には「改定は新型コロナウイルスの感染による影響も勘案して慎重に対応すべき」ということが骨太方針で示されました。
しかし、昨年末の結果はこれらの合意・方針から乖離し、大変厳しいものになりました。ここに至る経緯の中では、財源の捻出だけが焦点となっていた感があります。薬価は企業の将来の研究開発投資の源泉です。長期的な視点を欠いた議論が続けば国内の研究開発力は減衰し、新薬の創出が困難になってしまうことを憂慮しています。
日本には、病に苦しむ患者さんがまだ多くいます。われわれは、まだ有効な治療薬のない多くの疾患に挑戦を続けていかなければなりません。しかし、これから生み出されてくる新薬の価値を既存のルールで評価することは限界に来ています。
われわれは、これからの薬価制度について、新薬が生み出す多様な価値を適切に反映させると共に、国民が納得できる仕組みとすることが必要であると確信しています。