第54回日本薬剤師会学術大会

進行堂薬局本店
8月1日付でいち早く地域連携薬局の認定を取得した進行堂薬局本店。大阪市東住吉区に5薬局を展開する有限会社進行堂が、近鉄矢田駅前の商店街の一角に約30年前に最初に構えた薬局だ。店内の半分のスペースを割いて一般用医薬品や日用品を販売するエリアを設けるなど、昔ながらのパパママ薬局の雰囲気を色濃く残している。
同日付での認定取得は東住吉区では2薬局のみ。進行堂取締役で本店の管理薬剤師を務める竹内由香里氏は「昨年、地域連携薬局という枠組みが設けられることが決まった時から、認定を取得しようと考えていた」と振り返る。
現時点で認定取得によるメリットがあるとは考えていない。地域連携薬局をことさら大きくアピールするつもりもないという。それでも直ちに認定取得に踏み切ったのは、東住吉区薬剤師会副会長を務める立場から、「認定取得について会員から質問を受けた時に、自ら取得していればすぐに回答できる」との実務的な理由が大きい。

管理薬剤師の竹内由香里氏
ただ、将来は、地域連携薬局の認定が調剤報酬で評価されるのではないかと期待している。「地域連携薬局は、国が求める薬局の姿を現したもの。この先、薬局数が減らされるとの見方がある中、選別に向けて認定を取得しておく方がいいのではないかとも考えた」と語る。
地域連携薬局の認定は比較的スムーズに取得できた。これまでに調剤基本料の地域支援体制加算の体制を整備し、健康サポート薬局の認定も取得した。地域連携薬局の認定要件の多くはこれらの要件と重なるため、大きな苦労はなかった。膨大な資料の提出が求められた健康サポート薬局の認定取得に比べると、必要な申請資料の量は半分以下で済んだという。
要件の一つとして設定された他の医療機関への月平均30回以上の情報提供実績が認定取得のハードルになると言われているが、「普通に薬局薬剤師の仕事をしていれば、疑義照会以外に1日数件の連絡はしている」と由香里氏は話す。
実際に、高齢者施設に入居する患者の処方設計に関する連絡や、病院に送信したトレーシングレポート、病院から送られてきた退院時薬剤情報サマリーに対する返書などの件数を数えたところ、年間で400件以上に達していた。
在宅医療の実績も問われるが、平均して1人以上の患者を担当し、月2回以上訪問していれば満たせる程度の要件でハードルは高くない。進行堂薬局本店も常時数人の在宅患者を担当しており、患者と関わっていれば自然に在宅医療を受け持つ場面は出てくるという。
認定取得にあたって新たに取り組んだことは、無菌調製に対応できる体制の整備だ。大阪府薬剤師会の無菌調製に関する研修をオンラインで受けた。無菌調製設備を持つ大阪府薬の会営薬局と契約を結び、必要な時にはその設備を利用できる体制を整えた。
もっとも現状では無菌調製が必要な処方箋を応需する機会は少ない。それでも今後、クリーンベンチの購入を検討したいという。「100万円くらいかかり元は取れないが、他店舗や地域の薬局薬剤師がそれで研修できる。地域全体の底上げに役立つ」と由香里氏は話す。
地域密着型の薬局を展開
進行堂薬局の出発点は、由香里氏の祖父が薬種商として約90年前に現地に開業した薬店だ。約30年前、薬局に業態を転換。3代目となる由香里氏が病院勤務等を経て2006年から進行堂薬局本店で働き始めた。様々な人とのつながりで薬局を増やし、現在は近鉄針中野駅から隣の矢田駅までの直径1キロほどのエリアに計5薬局を展開している。
進行堂薬局本店には日々、顔なじみの地域の住民が気軽に立ち寄る。由香里氏の父で大阪府医薬品登録販売者協会副会長も務める竹内和良氏が、一般用医薬品や日用品を買いに訪れた顧客の相談に応じることが多い。以前は各地に数多く存在していた地域密着型のパパママ薬局を、そのまま絵に描いたような雰囲気だ。
由香里氏は「父に顧客がついている。高齢の方は特に自分の状況を説明し、相談しながら一般用医薬品などを買いたいのだと思う。症状を詳しく聞いて、それなら医薬品は不要と判断して何も売らない場合もある。損して得取れではないが、長期的な信頼関係の構築を重視している」と話す。
以前、一般用医薬品や日用品のエリアを縮小し、処方箋調剤に特化する方向性を模索したことがあった。しかし、父の和良氏はそのエリアはそのまま残すよう主張し、ゆずらなかった。「今にして思えばそれが良かった。売上の規模はそれほど大きくはないが、一定の額が見込めるため、薬局の経営基盤が安定する」と由香里氏は語る。
処方箋調剤と一般用医薬品販売の両立による相乗効果もある。例えば、一般用医薬品を購入しようと来店した顧客がいれば服用中の医療用医薬品をチェックし、成分の重複や相互作用を避けた一般用医薬品を推奨できる。一般用医薬品を販売した顧客が院外処方箋を持ってきてくれるようになったり、その逆もある。
医薬分業の進展とともに応需枚数は増えてきた。現在は進行堂薬局本店で月間約1000枚の処方箋を応需する。その半分弱は高齢者施設に入居する患者の処方箋だ。
薬局薬剤師の権限拡大を
今後の目標として由香里氏は「医師と討議しながら患者の医療に貢献できる薬局や薬剤師を目指したい」と語る。
現在の地域連携薬局にはあまり魅力を感じていない。「地域連携薬局を認定する仕組みを設け、薬局や薬剤師がその地域でより機能を発揮できるようにしたいのであれば、その名に恥じぬ活動ができるように制度や環境の整備も併せて推進してもらいたい」と強調する。
例えば、地域連携薬局であれば、緊急避妊薬を医師の処方箋なしで販売できるようにしてほしいという。現在は医師の処方箋が必要で、多くの場合、医師は診察しその場で服薬させるため処方箋は外に出てこない。地域の医療インフラの一つである薬局が十分に活用されていないのが現状だ。
このほか、処方箋応需時に患者情報を十分に把握できる仕組みが全国で整備されれば、薬剤師は今以上に力を発揮できると期待する。「薬剤師にもっと権限を持たせてほしい」と求める。
一方、地域連携薬局の要件として時間外や休日の対応を課すことには否定的だ。「要件がなくても以前から、薬剤師の職責として自らの意志で時間外や休日に対応してきた。それは上から指示されて強制的にやることではない。また、要件に定められると柔軟な対応ができなくなる。この要件は外してもいいのではないか」としている。