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【日本薬学会第142年会】若手研究者の育成は共通課題‐日本薬学会会頭 佐々木 茂貴氏に聞く

2022年03月23日 (水)

薬学教育担う人材不足解決へ

佐々木茂貴氏

 日本薬学会は若手研究者の育成に取り組んでいる。大学院博士課程進学者に月額5万円の研究奨励金を貸与する「長井記念薬学研究奨励支援事業」は今後も継続する計画だ。薬学出身研究者の減少は、将来の薬学教育を担う教員の人材不足に直結し、薬剤師の育成にも大きな影響を及ぼしかねない。薬学関係者が共通の課題として捉え、対策を講じる必要があるという。こうした課題や展望について、薬学会の会頭2年目を迎える佐々木茂貴氏(長崎国際大学薬学部教授)に聞いた。

研究に取組む魅力伝達を

 ――研究者育成が長年の課題だが、現状や展望は。

 4年制課程や6年制課程の上の大学院博士課程に進む学生の数が少ないことが課題だ。その数を増やすことには、薬学領域の研究者を育成するという意味のほか、将来教育者となって薬学の将来を支えてもらうという意味がある。

 全国の薬系大学の教員は定年等でおおよそ毎年約200人が退職すると見込まれている。逆に言えば、その穴を埋めるため毎年約200人の人材を供給しなければならない。しかし、2021年度の薬学出身者の就職動向調査結果を見ると、大学院修了者のうち大学等に就職したのは約90人にとどまっている。

 これはすごく大きな問題だ。薬学部の教員はある程度薬学出身者が占めることが望ましいが、実際には既に他学部出身者から登用する現象が起こっている。

 対策を講じるため薬学会は、大学院博士課程への進学者に月額5万円の研究奨励金を貸与し、博士号を取得した場合には返還を免除する制度を設けて、進学を後押ししてきた。

 薬学会の支出全体の中でも、長井記念薬学研究奨励金事業への支出は突出している。会員減少を受けて会の運営は厳しさを増しているが、若手研究者の育成が使命と打ち出している以上、この事業は薬学会の概念的な柱になりつつある。財政が厳しいからといって、簡単にやめるわけにはいかない。

 こうした危機感を多くの関係者と共有していきたい。会頭就任後、文部科学省の「薬学系人材養成の在り方に関する検討会」で意見を述べる機会があった。検討会では、薬剤師の育成がテーマの大半で、将来の薬学の研究教育体制を支える人材の育成という議論はほとんどなかったが、こうした現状と課題について発言した。

 新型コロナウイルスの感染拡大が収まらず、十分な機会を設けられていないが、他の関係団体とも話し合いを進めたい。この問題は間接的に薬剤師の育成にも大きく関係する。薬学の世界の関係団体が一致団結し、次世代の研究者育成に取り組むようになれば良いと考えている。

 各薬系大学の教員が学生に、研究に取り組むことの魅力を伝えることも重要だ。各教員には、新たなことを発見する研究の感動を伝える時間的余裕はないかもしれないが、淡々と教えるだけでは研究の魅力は伝わらない。研究の意義やわくわく感を伝える努力をしてもらいたい。

英文学術誌発行に注力‐掲載論文引用回数増も

 ――このほか課題や力を入れて取り組んでいることは何か。

 薬学会は三つの英文学術誌を発行している。「ケミカル・アンド・ファーマシューティカル・ブレティン」(CPB)、「バイオロジカル・アンド・ファーマシューティカル・ブレティン」(BPB)のインパクトファクター(IF)や評判をいかに高めるかが長年の課題だ。

 前会頭の時代から、CPBとBPBに掲載された内容を月1回電子メールで、薬学会会員や論文著者らにニュースレターとして送信する取り組みを開始した。会誌「ファルマシア」でも、これらの学術誌に掲載された注目すべき論文の図や要点を掲載するようにした。

 こうした工夫で近年は掲載された論文が引用される回数が増え、IFの数値が上昇してきた。今年2月からはCPB、BPBの冊子体の発行を中止し、生物系のオンラインジャーナル「BPBReports」と同様に完全に電子ジャーナル化した。印刷用の編集の手間がなくなるため論文を早く公開できるという利点がある。IFをさらに高めていきたい。日本語の「薬学雑誌」は従来通り冊子体での発行を続ける計画だ。

 ――薬学会の運営上の課題やその解決策は。

 会員数が減り続けていることが課題だ。その要因を分析し、対策を講じるワーキンググループを昨年暮れに設置した。

 具体的に様々な検討を進めているが、その一つとして薬学会のホームページを会員のメリットが高まるように変更する。例えば、毎月発行している機関誌「ファルマシア」をeブック化し、いつでもどこでもバックナンバーを含めて閲覧できるようにしたい。冊子体のeブックへの移行は経費の削減にもつながる。

 長井記念薬学研究奨励金の貸与者は博士号を取得すると返還を免除されるが、博士号取得後にすぐ退会する者が相次いだ。そこで、昨年度の採用者から学位取得後3年間会員であった場合に返還を免除する方法に改めた。少しでも長く会員を続けてもらいたい。

 このほか、長年会員であり続けている方を表彰する制度も立ち上げた。

 会員を増やす目的は、会費収入の増加だけではない。薬学分野で育った人材には学術研究にずっと関心を持ってもらいたい。そのことで薬学の学術活動を継続的に活性化したいと考えている。

 ――長井記念館の将来計画は。

 薬学会は東京都渋谷区に8階建てのビル、長井記念館を所有している。30年後のビル建て替えを念頭にワーキンググループを設置した。建て替えるために毎年いくらの積立金が必要なのかなど、具体的な検討を進めている。長井記念館はテナント収入を生み出しているが、それだけで建て替えに必要な全ての資金をまかなうことは難しく、借入金を想定している。会費の値上げは考えていない。

異分野融合を呼びかけ‐多領域連携で開発加速

 ――薬学研究の活性化策は。

 日本の創薬力低下が指摘されている。日本の研究者には細かい領域を深く掘り下げていく特性がある。

 一方、様々な領域を総合的に横断し新たな領域を生み出していくことは得意ではない。薬学会には領域別に部会が設けられているが、横の交流は十分ではなかった。

 こうした背景から会頭就任後、異分野融合を呼びかけてきた。様々な領域が連携することで新薬開発が加速する。新型コロナウイルス感染症のワクチンとしてmRNAワクチンが開発されたのが良い例だろう。

 それぞれの専門領域は年々深くなっている。そこばかり取り組んでいると他の領域のことが分からなくなる。一つの領域に深く習熟した上で全体を広く理解すると、重要なところに集中しやすくなる。

 異分野融合の一つとして第142年会では、薬学会の化学系薬学部会と医薬化学部会合同の国際交流シンポジウムが設けられる。各支部の大会でも異分野融合のシンポジウムが企画されている。

 基礎と臨床の融合も重要だ。基礎から臨床へのトランスレーショナルリサーチ、臨床から基礎へのリバーストランスレーショナルリサーチを今まで以上に推進するべきだろう。



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