ディオバン問題、臨床研究の本質議論を

2013年6月7日 (金)

社説


 ノバルティスファーマが販売する降圧剤「ディオバン」の医師主導臨床研究の不正問題は、業界に激震をもたらした。ディオバンをめぐる複数論文のデータ解析に問題があるとされ、責任著者が論文を取り下げたばかりか、ノバルティス社員が身分を偽りデータ解析に関与していたことが発覚。日本の臨床研究の信頼性を根底から揺さぶった。

 日本医学会はディオバンの臨床研究にかかわった複数の大学に対し、第三者的立場から調査委員会を設置し、データの再検証を行って説明責任を果たすよう要求。高久史麿同会会長は「メーカー社員の身分を偽ったことは許し難い行為。問題のある論文を使って大いに製品を宣伝したことには、道義的、社会的に責任がある」と厳しく批判した。日本医師会もノバルティスに対し、不正問題の事実関係について早急に説明責任を果たすよう求めた。

 今回の事態を生んだ背景について、日本医学会利益相反委員会は「透明性のない産学連携活動に起因している」と指摘し、疑惑を招かない医師主導臨床試験の実施に向けたルール作りが求められるとしている。まさにメーカー社員が身分を偽り、不透明な中で自社製品のエビデンスを作る臨床研究の解析を行い、有利なデータを得ようとしたことは厳しく批判されるべきだ。しかも、その不正データを活用して大々的に宣伝し、1000億円以上を売り上げていたという事実は、エビデンスに基づく医療を根底から覆す行為であり、到底許されない。

 ただ、今回の重大な不正について、製薬企業と医師の利益相反関係だけを指弾して終わらせてはいけない。ディオバン不正問題で、引き続きノバルティスや臨床研究の実施にかかわった大学は、データの再検証などの説明責任を果たす努力を続けるべきなのは当然として、一方で利益相反によって臨床研究の質や公正性が歪められないためには何をすればいいのか。日本医学会は医学研究のCOIマネージメントガイドラインの改訂を表明したが、もっと医学研究の本質的なあり方を議論すべき時ではないか。

 日本の臨床研究の脆弱さはかねてより指摘されており、未だに被験者をないがしろにした研究の不正も相次ぐ。ノバルティスは不正問題を謝罪し、プロモーションの自粛や関係役員の月額報酬の2カ月間10%減額などの対応策を表明したが、製薬企業と研究者の関係が大きくクローズアップされたディオバン不正問題が何らかの形で決着を見たとしても、それで日本の臨床研究の信頼性が回復するわけではない。

 折しも現在、臨床研究に関する倫理指針の改訂作業が進められている。製薬企業との関係も含め、日本で質の高い公正な臨床研究を行う体制を作り、適切に研究が実施されていることを医学会全体で示して信頼回復に努めなければ、国民の医療向上に甚大な影響が出かねない。それだけの問題だという認識を全てのステークホルダーが共有すべきだ。まずそこが信頼回復へのスタートになる。

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