千葉大学大学院薬学研究院助教 中島 誠也

われわれの身の回りに存在している物質は分子でできている。分子は原子の集合体であり、原子と原子の結合は電子によって形成されている。電子が動く際には一般に二つがペアで移動し、分子の新たな結合の生成や結合の開裂が生じる。
一方で、ペアがいない一つの電子は「ラジカル化学種」と呼ばれ、高い反応性を有している。そのため、ラジカル化学種の制御は医薬品などの物質を化学合成する「ものづくり」において重要である。このような観点から筆者は、ラジカル化学種を活用する研究を展開してきた。
ラジカル化学種を発生させる代表的な方法として「光照射」がある。分子に光を吸収させると、ラジカルが二つ別々に存在する「ビラジカル」状態になる。そこで筆者は取り扱いが容易な可視光によるラジカル化学種の発生方法を模索した。その結果、重い原子を含有する分子が、特殊なメカニズムによって光を吸収し化学反応を引き起こしていることを証明することに成功し、医薬品開発の基礎になり得る物質の化学合成や蛍光成分子合成に応用した。また、可視光を照射することで、金属のラジカル化学種を効率的に発生させる配位子(金属に結合する分子)をコンピュータ計算でデザインし、実際に作り出すことに成功した。
自然界では、植物の中などで様々ラジカル反応によって分子が合成されている。筆者はワインに含まれるポリフェノールの一種である「レスベラトロール」から植物内で合成される様々な分子の変換経路をコンピュータにより計算した。その結果、複数の分子において提唱されている化学構造が誤っていると算出された。
そこで、実際にラジカル反応を駆使しそれらの分子を化学的に合成した結果、コンピュータ計算による予測構造が正しい構造であることの証明に成功した。
本研究成果のように、ラジカル化学種に関する研究は物質創成技術の基礎となる。日本の「ものづくり」の発展に寄与することを目標とし、これからも研究に邁進する所存である。