全国の過疎地をはじめとする地域医療が危機に瀕する中、薬剤師不足も依然として解消されていない。以前から地方を中心に「薬剤師が足りない」との悲痛な訴えが続いてきた。それに対し、国は2024年度から都道府県が策定する第8次医療計画に薬剤師確保策を盛り込むことを決め、24年度診療報酬改定で大学病院等の基幹病院が他院に薬剤師を出向させた場合などに算定できる「薬剤業務向上加算」を新設し、一定の成果を見ることができた。大学薬学部、薬科大学では「地域枠」の設定も進んでいる。
しかし、思ったような成果が得られていないのも現実である。先日公表された24年度診療報酬改定に関する影響調査の速報結果では、病床規模別の薬剤師の求人数に対する応募と採用割合について、200床未満の病院では求人数に対する応募者割合が定員割れしていることが判明した。求人数に対する採用割合は、いずれの病床規模でも100%より低かったという。
求人数に対する採用数割合を見ると、さらに深刻な状況が浮かび上がった。20床~100床未満は52.2%、100床~200床未満は44.6%、200床~300床未満が53.2%、300床~400床未満が60.4%、400床~500床未満が72.8%、500床以上が70.3%と薬剤師不足が明らかで、特に200床未満では求人数の半数ほどしか確保できていなかった。
薬剤業務向上加算を算定する大学病院等の基幹病院も決して安泰ではない。地方の基幹病院の多くは欠員の状態にあり、他院に薬剤師を出向させられる余力のある病院薬剤部は少ないのが現状だ。
薬剤業務向上加算の算定では、基幹病院から地域の病院に出向した薬剤師が地域医療を学び、支え、さらにその報酬から増員につなげるというプラスの面も見られており、都道府県による奨学金の返済支援や大学の地域枠も広がりを見せつつある。こうした取り組みを通じ各地域で少しでも魅力ある職場づくりが実現し、新卒や中途採用で人材が集まるという好循環が生まれることを期待したい。
一方で、大阪赤十字病院から高知県立幡多けんみん病院に薬剤師が出向したような「県またぎ」の事例に注目したい。県またぎの支援が実現すれば、その地域の基幹病院から薬剤師を出せなくても、他の都道府県から支援を受けられるようになり、偏在の是正につながる可能性は高まる。
そのためにも、現在の国と都道府県、大学による取り組みをさらに立体的に進めていく必要がある。例えば、複数の県と大学薬学部が連携したり、卒業後一定期間、地方で薬剤師としての勤務を義務づける地域枠制度の実効性を高めるような仕組みの再構築などが考えられる。
今後、薬剤師不足がさらに進むと予想される中、次の一手が必要な時期に来ている。