指定乱用防止医薬品とは:一般用医薬品のオーバードーズ対策

更新日:2025年07月29日 (火)
厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会(2025年7月23日)で「指定乱用防止医薬品」の販売制限対象年齢は18歳未満とする方向性が了承された。

厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会(2025年7月23日)で「指定乱用防止医薬品」の販売制限対象年齢は18歳未満とする方向性が了承された。

 指定乱用防止医薬品とは、一般用医薬品(OTC医薬品)のうち乱用されるおそれがあるため販売時に特別な規制が設けられた医薬品です。正式には「濫用等のおそれのある医薬品」と呼ばれており、厚生労働大臣が薬機法施行規則第15条の2に基づき指定する一般用医薬品のことを表します。

 近年、咳止め薬や風邪薬など市販薬の本来の目的外使用(オーバードーズ)が若年層を中心に社会問題化しており、厚生労働省はこうした市販薬乱用の防止対策を強化するため「濫用等のおそれのある医薬品」を設け、必要に応じて対策を強めています。

 薬学生や若手薬剤師の皆様には、指定乱用防止医薬品の具体的な成分はもちろん、関連する法規制を把握したうえで市販薬乱用防止対策に取り組んでいただくことに期待いたします。

指定乱用防止医薬品の一覧

 具体的には以下の6つの成分を有効成分とする医薬品が該当します。

  • エフェドリン(興奮作用を持つ成分)
  • コデイン(鎮咳去痰薬に使われる opioid 系成分)
  • ジヒドロコデイン(鎮咳去痰薬に使われるコデイン類似成分)
  • ブロモバレリル尿素(鎮静作用を持つ鎮静薬成分)
  • プソイドエフェドリン(エフェドリン類似の鼻粘膜充血除去成分)
  • メチルエフェドリン(エフェドリン類似の気管支拡張成分)

 これら6成分を含む市販薬が指定乱用防止医薬品にあたり、具体的には総合感冒薬(風邪薬)、咳止め(鎮咳去痰薬)、鼻炎用内服薬、眠気を誘う鎮静薬など複数のOTC医薬品が該当します。

販売時の法規制とルール

 指定乱用防止医薬品の販売には、市販薬より厳しいルールが定められています。薬機法施行規則第15条の2に基づき、薬局・ドラッグストアでは販売時に以下の対応が義務付けられています。

1人あたりの販売数量制限  「原則として1人1包装まで」。複数購入を希望する場合はその理由の確認が必要。適正な使用上必要と認められない限り追加販売してはならない。
若年者への対応  購入者が中高生等の若年者の場合、氏名および年齢確認(身分証の提示)を行う。未成年者には保護者の同意確認や場合によって販売を差し控える措置も求められる。
重複購入の確認  購入者が他の店ですでに同種製品を購入していないか、他店での購入履歴を確認する。必要に応じて質問し、複数店舗での大量購入を防止。
用途の確認  明らかに治療目的を逸脱する購入でないか、購入目的が適正かを確認する(例えば「成分を抽出する目的ではないか」等)。不審な場合は販売を控える。

 これら確認事項を実施し、適正使用に必要な数量のみ販売することが義務づけられています。例えば、高校生が咳止めシロップを複数購入しようとしたら販売員は身分証で年齢確認を行い、なぜ複数が必要か理由を尋ねるといった対応が必要になります。また販売時には必ず薬剤師または登録販売者が対応し、使用上の注意を説明することも求められます。

 さらに店頭に掲示する注意喚起ポスターの利用促進や、購入者への確認事項が徹底されています。厚生労働省や業界団体は、店舗側に対しこれら規則遵守の徹底を呼びかけるとともに、一般消費者に対しても「1人1箱ルール」への理解と協力を求めています

2025年薬機法改正の詳細と影響

 2025年5月14日、一般用医薬品の販売制度を見直す改正医薬品医療機器等法(薬機法)が参議院本会議で可決・成立しました。この改正には、指定乱用防止医薬品の乱用防止策として以下のようなポイントが盛り込まれています。

若年者への販売規制強化  未成年者(18歳未満)に対して、指定乱用防止医薬品の大容量包装や複数個の販売を禁止しました。これにより高校生などが一度に大量の市販薬を購入することが法的にできなくなります。未成年者への小容量(少量)製品の販売は引き続き可能ですが、その際は必ず年齢確認を行い、薬剤師または登録販売者が対面で販売することが求められます。この「未成年者」の範囲については国会審議過程で議論があり、当初は飲酒・喫煙可能年齢を踏まえ若年者を20歳未満にすべきとの考えが示されていましたが、民法上の成年年齢に合わせて18歳未満とする方針が示されました。また、年齢に関係なく適切に対応するため、20代前半と高校生の乱用リスクが高いデータから、境界となる年齢を含めた年齢層に対して年齢・本人確認の徹底を求めるほか、18歳以上でも高校生である場合はより留意した対応を現場に求めることとなりました。
複数購入時の確認義務(法制化)  改正前からガイドライン等で求められていた、購入時の確認事項(氏名・年齢や他店での購入状況、複数購入の場合の理由確認)が法律上の義務となりました。すなわち、(未成年者への小容量販売時や成年者への複数販売時には)販売業者は購入者の他店舗での購入状況、氏名・年齢、購入理由等を必ず確認し、記録・情報提供することが明文化されました。違反した場合の指導や罰則も今後整備される見込みで、販売側の責任がより明確になりました。
オンライン販売時の対面確認義務  インターネット等通信販売で指定乱用防止医薬品を販売する際にも、テレビ電話等を用いた「対話式」の確認を若年者および18歳以上の大容量製品の多量購入者については義務化しました。これにより、従来はオンラインで容易に購入できていた状況が是正され、店舗での対面販売と同等に購入者の状況確認・注意喚起を行うことが必要となります。
施行時期  改正薬機法の市販薬販売規制に関する部分は公布から1年以内(2026年5月まで)に施行される予定です。これまで販売現場での対策準備期間が確保されており、厚生労働省は周知期間中に詳細な省令や指針を示す見込みです。対象年齢や「大容量」の定義など細部は省令で規定されるため、薬局・販売業者は最新情報のフォローが必要です。

 2025年の薬機法改正は市販薬乱用防止に画期的な一歩をもたらしたと言えます。販売現場には厳格な運用が求められますが、その先には「乱用しづらい環境づくり」という社会的利益が期待されています。特に若年層の市販薬OD増加に歯止めをかける効果は大きく、今後の施行と運用状況が注目されます。

 薬学生や若手薬剤師の皆様には、指定乱用防止医薬品の具体的な成分はもちろん、関連する法規制を把握したうえで市販薬乱用防止対策に取り組んでいただくことに期待いたします。

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