
はじめに
OTC類似薬という言葉をご存じでしょうか。OTC類似薬は、医療用医薬品のうち、要指導医薬品・一般用医薬品(OTC医薬品)と類似する医薬品を指す言葉で、医療保険制度改革の中で重要なキーワードとなっています。今回は注目が集まるOTC類似薬の定義から保険適用除外の背景、患者や医療機関への影響まで、薬学生や若手薬剤師の皆さんが知っておくべき基本情報を解説します。
OTC類似薬とは:基本定義と特徴
OTC類似薬の明確な定義はありませんが、一般的には、医療用医薬品として処方されるものの、要指導医薬品・一般用医薬品(OTC医薬品)と同様の有効成分・効能を持つ医薬品を指します。具体的には、湿布薬、目薬、ビタミン剤、漢方薬、胃腸薬など、比較的軽度な症状に対して使用される医薬品が該当します。
OTC類似薬の最大の特徴は、医師の処方箋に基づいて調剤される「医療用医薬品」でありながら、薬局やドラッグストアで処方箋なしに購入できる「OTC医薬品」と成分や効能が類似していることです。
ロキソニンを例に挙げると、医療用医薬品として処方される「ロキソニン錠60mg」と、OTC医薬品として販売される「ロキソニンS」があります。有効成分はいずれもロキソプロフェンナトリウムで、成分量なども同じですが、医療用は保険適用される一方、OTCは処方箋を不要とするかわりに全額自己負担となります。
保険適用除外の背景と理由
近年、OTC類似薬の保険適用除外(保険外し)が医療費抑制策として議論されています。その背景と理由を3点紹介します。
1.医療費の増大と財政圧迫
日本の医療費は高齢化や医療技術の高度化により年々増加し、令和5年度には約47兆円に達しています。この財政圧迫に対応するため、比較的軽度な症状に対する医薬品については、保険適用を見直す動きが強まっています。
2.セルフメディケーションの推進
政府は「セルフメディケーション」の考え方を推進しており、軽度な症状については自己判断で市販薬を活用することを奨励しています。2017年からは「セルフメディケーション税制」も導入され、特定の市販薬購入に対する所得控除も実施されています。
保険適用を見直す動きが強まる一方、患者負担増加への懸念から慎重な議論も続いています。また、2022年度の診療報酬改定では、湿布薬について1回処方の上限枚数が70枚から63枚に引き下げられるなど、段階的な対応も見られます。
患者・医療機関・社会全体への影響
OTC類似薬の保険適用除外は、様々な影響をもたらします。
患者への影響
- 【経済的負担】保険適用外になると、患者の自己負担が増加するすることになります。特に頻繁に使用する慢性疾患患者にとっては負担増が大きくなる可能性があります。
- 【受診行動の変化】軽度の症状では医療機関を受診せず、市販薬で対応する患者が増加する可能性があります。
- 【セルフメディケーション意識の高まり】自身の健康管理への関心や知識が向上する可能性があります。
医療機関・薬局への影響
- 【外来患者数の変化】軽症患者の減少により、重症患者への医療資源の重点的配分の実現が期待される一方、医療機関の収入減少につながる可能性もあります。
- 【処方内容の変化】保険適用となる代替薬の処方が増える可能性があります。
- 【受診勧奨の役割】薬局・ドラッグストアが症状に応じた適切な受診勧奨を行う重要性が高まります。
社会全体への影響
- 【医療費抑制効果】診療費・薬剤費の削減が期待されます。
- 【セルフメディケーション市場の拡大】OTC医薬品市場の活性化が見込まれます。
- 【薬局・ドラッグストアの役割変化】健康相談や情報提供機能の重要性が増します。
今後の政策動向と展望
OTC類似薬をめぐる政策は、段階的に進展していくと予想されます。
- 【セルフメディケーション税制の拡充】市販薬購入の税制優遇措置の拡充が検討される可能性があります。
- 【医薬品アクセスの公平性確保】地域間や所得間での医薬品アクセスの格差が生じないような配慮が必要です。
- 【薬剤師の役割拡大】セルフメディケーション推進に伴い、適切な薬剤選択をサポートする薬剤師の役割が一層重要になるでしょう。
海外では、フランスやドイツなど一部の薬効群について保険適用を制限している国もあり、これらの事例も参考にしながら日本独自の制度設計が進むと考えられます。
まとめ:医薬品業界で働く方々へ
OTC類似薬をめぐる議論は、日本の医療制度や薬剤使用の在り方に大きな変革をもたらす可能性があります。薬学生や若手薬剤師の皆さんは、単なる制度変更としてではなく、国民の健康維持と医療資源の最適配分という視点から理解を深めることが重要です。
今後は特に、患者への適切な情報提供と、セルフメディケーションをサポートする専門家としての役割が一層重要になるでしょう。医療費抑制と患者負担のバランスを考慮しながら、最適な医薬品使用の実現に貢献することが期待されています。
参考:OTC医薬品と医療用医薬品の違い
OTC類似薬を理解するためには、OTC医薬品と医療用医薬品の違いを把握することが重要です。ここでOTC医薬品と医療用医薬品の特徴についてまとめておきます。
OTC医薬品(要指導医薬品・一般用医薬品)の特徴
- 処方箋なしで購入可能
- 全額自己負担(保険適用外)
- 自己判断での使用が前提
- 比較的安全性の高い成分・用量で設計
- 第1類〜第3類医薬品に分類され、リスクに応じた販売規制
- 添付文書や包装に一般消費者向けの説明
医療用医薬品の特徴
- 処方箋等、医師の指示の下に使用されることが前提
- 健康保険が適用(一部負担金のみ支払い)
- 医師の診断・判断に基づく使用
- 有効成分の種類や濃度が多様(高リスク医薬品も含む)
- 医療専門職向けの添付文書
OTC類似薬は、OTC医薬品と医療用医薬品の中間に位置する医薬品と考えられます。医療用として処方されますが、OTC医薬品としても同様の成分が市販されているという特徴があります。