日本病院薬剤師会は今月、2035年までのミッション・ビジョンを発表し、病棟薬剤業務実施加算の算定施設割合を50%以上に高めることを目標の一つに掲げた。
8月時点で同加算1の算定届出病院の割合は全体の26.2%。400床以上の大病院の届出率は67.9%と高いが、全病院の71%を占める200床未満の病院では届出率が19%と低い。一概には断定できないものの、この算定率から単純に考えると、病院薬剤師の標準的な業務として病棟薬剤業務を位置づけるには、まだ道半ばと言える。
病棟薬剤業務は、薬剤師が病棟に週20時間以上常駐し、多職種と連携して様々な業務を担うもの。病棟単位のチーム医療の一員として薬剤師が役割を発揮し、個々の患者の薬物療法の最適化に関わる。算定率向上の目標達成は容易ではないが、将来の医療体制や薬剤師職能の方向性を考えると、多くの病院で薬剤師が病棟に常駐する体制を目指すことは重要だ。
この先、医療現場の様々な場面で人工知能(AI)の活用が進むだろう。既に、問診や業務記録作成などにAIを活用するシステムが登場している。AIの活用は、文書作成などの業務効率化から始まり、より高度な業務へと段階的に進むと考えられる。
画像に基づく診断でAIが有用であることはよく知られる。今後、AIの機能が各種診断や治療方針立案の支援に拡張し、診療ガイドラインと連動した標準的な薬物治療の提案や、患者背景に応じた薬物療法個別化の提案まで担うようになるかもしれない。
このような未来が訪れた時に、病棟単位のチーム医療に薬剤師が加わっていれば、薬剤師自身がAI搭載システムを使いこなし、自身の薬学的知見を加えて、医師に薬物療法の個別最適化を提案する体制を維持できるだろう。
一方、薬剤師の関与が不十分なまま推移すれば、AIが医師の直接的なパートナーとなり、薬剤師を介さずに医師の薬物療法適正化を支える可能性が高まる。
AI時代を見据えて、なるべく早期に多くの病院で病棟に薬剤師が常駐する体制を構築することが重要だ。それには診療報酬の評価が必要になる。病棟薬剤業務実施加算の算定要件緩和を求めるだけでなく、国の命題である医療費抑制に病棟業務がどう役立つかというエビデンスを発信し続けることも欠かせない。
病院薬剤師の偏在や不足の緩和は一筋縄ではいかない。初任給格差から病院を敬遠し、薬局やドラッグストアで働く道を選ぶ薬学生は少なくないが、患者数や医療需要の減少によって、薬剤師数が過剰になる未来も想定されている。
社会の変化を薬学生に伝え、病院での勤務経験が将来、薬局が関わる在宅医療に役立つなど、中長期の視点で自身のキャリアパスをしっかり考えてもらうことも病院薬剤師不足対策になり得る。























