製造販売後調査(PMS)とは?医薬品の安全性・有効性を守る仕組みと最新動向【2025年最新版】

更新日:2025年11月06日 (木)

1. 製造販売後調査(PMS)の基本概念と目的

 製造販売後調査(Post-Marketing Surveillance, PMS)とは、新薬や医療機器が承認・販売された後に、その製品の安全性や有効性を継続的に確認するために行われる調査活動です。製薬企業など製造販売業者が中心となり、実際の医療現場で収集されたデータを分析して、規制当局(厚生労働省やPMDA)へ定期的に報告します。

 PMSの主な目的は以下のとおりです。

安全性の確認 承認前の臨床試験では見つからなかった新規の副作用や稀な有害事象を早期に発見し、必要に応じて添付文書の改訂や注意喚起などの改善措置を講じることで、患者の安全を守ります。
有効性の確認 広範な患者に使われる中で、治験では十分データを得られなかった長期の有効性や使用成績を評価し、期待どおりの効果が得られているか検証します。必要に応じて用法用量や対象患者の適正化につなげます。
情報収集と品質向上 さまざまな患者背景(高齢者や小児、併用薬のある患者など)でのデータを集めることで、安全性や有効性に影響を与える要因を分析し、製品の品質管理に役立てます。得られた知見は製品の品質改善や適正使用の推進にフィードバックされます。

 また、PMSは業界における信頼性向上にも重要です。製造販売後調査の実施は法律で義務づけられており(GPSP省令に準拠)、企業が販売後も責任を持って安全対策に取り組んでいることを示すものです。適切なPMSを遂行することは、医療関係者や消費者からの信頼獲得につながり、医薬品の安全性確保と信頼性向上に大きく寄与します。

2. 医薬品開発プロセスにおけるPMSの立ち位置

 新薬開発は通常、臨床試験の第I相(P1)・第II相(P2)・第III相(P3)を経て承認申請が行われ、当局の審査により製造販売が承認されます。その後、実際に販売開始された後の段階が第IV相(P4)に位置づけられ、これに該当するのが製造販売後調査(PMS)です。
つまりPMSは、治験段階で確認した有効性・安全性について、市販後の実臨床で最終確認し補完するプロセスと言えます。承認後も一定期間(通常は数年にわたる再審査期間)に継続してPMSを実施し、その結果をもとに改めて製品の評価(再審査)が行われます。PMSは医薬品のライフサイクルにおいて「承認後の継続的な安全性監視フェーズ」として、新薬開発の締めくくりと品質保証の役割を果たします。

3. 「市販後調査」と「製造販売後調査(PMS)」の違い

 一般に「市販後調査」という場合、特に新薬発売直後の短期間に集中的に行われる安全性監視(市販直後調査)を指すことが多く、「製造販売後調査(PMS)」は承認後の長期計画に基づく包括的な調査を指します。両者は目的や期間に違いがあります。以下の表で比較してみましょう。

区分 市販後調査
(市販直後調査)
製造販売後調査
(PMS)
主な目的 新薬発売直後の重篤な副作用の早期発見と迅速な安全対策。適正使用の徹底など初期リスク管理が中心。 承認後全期間にわたる安全性・有効性の継続評価。未知の副作用検出や長期的な有効性確認、リスク最小化策の実施。
調査期間 販売開始後約6か月間(短期集中的に実施)。 販売開始後再審査期間中(通常4~8年程度)継続して実施。
データ収集方法 医療機関からの自発的な副作用報告収集が中心。MRが定期訪問して状況把握。 製造販売業者が計画を立て、調査票やデータベース等で系統的に情報収集。必要に応じ臨床試験も実施。

 ※一般には「市販直後調査」はPMSの一部に含まれますが、上表のように対象期間やアプローチが異なるため、PMSの中の特別な初期段階として位置付けられます。

4. PMSの主な種類と調査手法

 製造販売後調査には、調査の手法や目的に応じていくつかの種類があります。それぞれの特徴を簡潔にまとめます。

使用成績調査(一般使用成績調査・特定使用成績調査) 実際の診療で当該医薬品を使用した成績(有効性・安全性)を調べる調査です。幅広い症例を対象に行う一般調査では、未発見の副作用や効果を確認します。小児や高齢者など対象を絞る特定使用成績調査では、特定の患者層での安全性・有効性を詳しく評価します。
製造販売後データベース調査 DPCデータやレセプト、電子カルテなど既存の医療データベースを利用して行う調査です。多数の患者データを効率的に解析でき、調査票によらないため速やかに傾向を把握可能です。情報の利活用によってコスト削減や迅速なリスク検出が期待できます。
製造販売後臨床試験 市販後に改めて実施する追加の臨床試験です。例えば、観察下で得られた仮説や、さらなる有効性検証が必要な事項について、対照試験など科学的な方法で確認します。結果は再審査資料に組み込まれ、場合によっては新たな効能追加や安全対策に直結します。

5. AI・ビッグデータ活用によるPMSの進化と事例

 昨今、デジタル技術の進展により、PMSにもAIやビッグデータ解析を取り入れた新手法が登場しています。従来は人手で行っていた副作用情報の解析や収集が、テクノロジーの力で効率化・高度化されつつあります。代表的な活用事例を紹介します。

リアルワールドデータ(RWD)の活用 電子カルテや診療報酬明細など実臨床で蓄積されたリアルワールドデータを解析し、安全性や有効性のエビデンスを得る取り組みです。多数の患者データから統計的に有意な傾向を導き出し、短期間で広範な情報を得ることができます。これにより、PMSでの情報収集が大幅に効率化され、リスク評価の精度向上が期待できます。
AIによる副作用予測・シグナル検出 機械学習や自然言語処理の技術を用いて、膨大な副作用報告や医療記録から安全性シグナル(副作用の兆候)を自動検知する試みです。AIがパターンを学習することで、人では見逃しがちな薬と症状の関連を発見したり、特定患者における副作用発現リスクを予測したりできます。これにより、安全性情報の監視がリアルタイムかつ網羅的に行えるようになります。
PMS専用EDCの導入 製造販売後調査向けに設計された電子データ収集(Electronic Data Capture)システムを活用する動きも進んでいます。調査票を電子化し、医療機関から直接データを送信できるようにすることで、手入力や紙回収の手間を削減します。EDCを用いるとデータの整合性チェックも自動化され、報告の正確性や情報追跡も向上します。PMS専用EDCの活用は、調査の効率化と質の両面で重要な役割を果たしています。

6. OTC医薬品の副作用情報収集:課題と電子化の展望

 OTC医薬品(一般用医薬品)の場合、処方薬と異なり医師を介さずに入手できるため、副作用情報の収集には独自の課題があります。従来は購入者にハガキアンケートを送って副作用の有無を報告してもらう手法などが取られてきましたが、回収率が低く時間もかかるなど非効率でした。そこで近年、デジタル技術を使った情報収集の改善が模索されています。

 現状の課題と将来の展望を比較すると、以下のようになります。

現状の課題 電子化による展望
消費者からの副作用報告が少なく、情報が集まりにくい。 スマホやWebフォームによる報告チャネルの拡充で、誰でも簡単に情報提供が可能に。
紙のアンケート回収は手間がかかり、集計・分析に時間がかかる。 オンラインアンケートで回答が即時データ化。リアルタイム集計・分析ができ、迅速な対応が可能。
報告内容の記録や追跡が煩雑で、品質管理が難しい。 電子システム上でデータが蓄積され、履歴管理も容易に。一元管理で情報の信頼性・追跡性が向上。
報告内容の記録や追跡が煩雑で、品質管理が難しい。 電子システム上でデータが蓄積され、履歴管理も容易に。一元管理で情報の信頼性・追跡性が向上。

 実際、2025年にはガイドラインの改訂により、要指導医薬品・OTC医薬品の製造販売後調査で電子的手法(オンラインアンケート等)の活用が公式に認められました。今後は購入者が消費者向けのWebフォームやスマホアプリを通じて副作用情報を報告する仕組みが普及していくでしょう。これにより、OTC医薬品についても効率的かつ網羅的な安全性情報の収集と活用が期待されます。

7. むすび:PMSが支える医薬品の安全と価値向上

 製造販売後調査(PMS)は、新薬が承認された後も継続して安全性と有効性を見守る社会的に重要な仕組みです。PMSによって蓄積されたデータは、医薬品のリスクとベネフィットを再評価し、適正使用のための貴重なエビデンスとなります。販売後も安全対策を怠らないことは、患者や医療者の信頼につながり、結果的に医薬品の価値向上にも貢献します。

 さらに、AI・ビッグデータの活用や電子的な情報収集など新たな技術の導入によって、PMSはより効率的で先進的な形へと進化しています。これから先、医薬品の安全確保は企業だけでなく患者や消費者も巻き込んだ形で強化されていくでしょう。

 PMSを適切に実施することは、医薬品の安全な未来を築くための鍵です。承認前から市販後まで連続した安全性監視を行うことで、私たちは安心して医薬品の恩恵を受けることができます。今後も製薬企業と医療現場、そして社会全体が協力してPMSを推進し、医薬品の有効性と安全性を高い水準で維持していくことが求められます。

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