フォーユーメディカル代表取締役
廣田祥司氏

一般者・患者と製薬企業・医療機関で、治験に関する認識や保有する情報量に乖離がある“情報の非対称性”が、治験の阻害要因としてクローズアップされる中、それを解決する手段として参考にしたいのが、医療マーケティングという考え方だ。医療の世界では、患者がインターネット上から信頼性の高い医療情報を探すのに対応し、医療機関側も積極的にウェブから情報発信して、自院で受診したいと思う患者を増やすマーケティング活動を始めている。医療コンサルティングを手がけるフォーユーメディカル代表取締役の廣田祥司氏は、「医療マーケティングとは、患者と医療者の双方向性のコミュニケーションに基づくもので、情報の非対称性を軽減できる」と話す。
患者と医療者をつなぐ‐求められる特定層へのPR
マーケティングというと、製品の販売促進における手段というイメージが強いが、実は生産者と消費者をつなぐ学問、手法を意味するという。営利企業だけではなく、国や非営利企業でも利用されている。廣田氏は、医療マーケティングの概念について、「医師・スタッフと患者の関係を良好に保ち、患者満足度を高める重要なツール」と説明する。医療分野でも取り入れられていると思いきや、こうした考え方は日本の医療では長らく導入されてこなかった。
それは、医療が市場として見なされていなかったからだ。医療提供者の医師と医療消費者の患者が存在するにもかかわらず、診療報酬や公定価格によって国が医療機関の行為を規制している側面から市場と捉えられず、医療機関と患者が需要と供給を成立させるためのコミュニケーションや情報を伝える場も形成されなかった。医療者と患者をつなぐツールもなかった。
医療における“市場の失敗”による大きな弊害が、提供者と消費者の「情報の非対称性」だ。医療経済学でよく使われる言葉で、一般的には提供者が消費者よりも情報を多く持っていることを指すが、他の業種に比べて医療分野では提供者側に情報の質と量で偏りがある。例えば、病気の内容や治療の内容、治療費などを医師に掌握されているため、患者はその通りに従うしかなかった。
しかし、時代が変化し、買い手である患者が医療サービスを求め、インターネット上で病名を検索し、病院や医師を探すといった行動が見られるようになった。医療機関も病院経営の厳しさを背景に受診患者を増やすため、患者満足度を重視し、患者が求める情報を発信しようとする施設も出てきている。
ただ、廣田氏によると、「病院側もただ単純に患者に情報発信するのではなく、受診してほしい特定患者(ターゲット)層に対するPRに関していえば、まだ不足している」という。
第三者の企業体が啓発を‐分かりやすい言葉で伝える
そんな中、病院側の医療マーケティングを支援する様々な医療メディアが登場している。例えば「メディカルノート」は、現役の医師が運営する医療ウェブメディアであり、臨床の第一線で活躍する各科の専門家の監修・執筆やインタビューを通じて、病気や医療に関する信頼できる情報を分かりやすく伝える。
廣田氏は、「医療における様々な問題の根底にある医療不信を解消する糸口は、情報の非対称性にある」と指摘する。今や治験に関しても、治療の一環で参加する患者からは情報が欲しくても収集できないという不信感、一般者からは「治験は人体実験」という誤解と、治験不信を招く結果となっている。
製薬企業・医療機関と患者間にある情報の非対称性を打破するためには、双方向でのコミュニケーションが求められ、より信頼性の高いメディアを使って情報のやり取りを行う必要性に迫られている。「治験に関しては素人だが、まずは社会的に治験に対する悪いイメージを払拭したり、新薬開発の必要性を理解してもらうための一般者向け啓発が必要ではないか」と廣田氏は話す。
さらに、「製薬企業が治験啓発するよりも、第三者に近い企業が発信者となってメッセージを伝えた方が国民感情に訴えやすいのではないか」と話す。コミュニケーションのあり方についても、「どの世界でも専門家と一般者が対話するとどうしても情報の非対称性が生じてしまうが、医療分野ではその乖離がひどくなりがちでコミュニケーションの壁になる。分かりやすい言葉で伝える技術が必要」と話す。