医薬品の原薬に発癌性物質であるN-ニトロソジメチルアミン(NDMA)が混入していた問題は世界的に波及し、日本もその渦中にある。グラクソ・スミスクライン(GSK)と後発品メーカー10社が抗潰瘍薬「ラニチジン」の自主回収を開始した。海外でラニチジン製剤と原薬にNDMAが検出され、欧米規制当局が安全性評価を開始したことを受け、一斉に自主回収に踏み切った。
厚生労働省は、類似化合物の「ニザチジン」も含めてNDMAの分析を行い、分析結果が出るまで製品を出荷しないよう求めている。
各社は、同製剤を服用している患者に対しては医療機関で代替薬への切り替えを推奨し、再診費用や通院に伴う交通費を含めた代替薬の費用を負担するなど対応に追われた。現段階では発癌性を示唆する事象は認められていないが、一刻も早いNDMA検出の原因究明が待たれている。
発端となったのは、昨年に起こったあすか製薬の高血圧症治療薬「バルサルタン錠『AA』」で、中国メーカーが製造した原薬からNDMAが検出され、約1255万錠の自主回収を余儀なくされた。
今年2月には、ファイザーが販売する高血圧治療薬「アムバロ配合錠『ファイザー』」で、N-ニトロソジエチルアミン(NDEA)の許容限度値を超える含有量が認められ、自主回収を行っている。原薬は医薬品の源であるが、海外原薬をめぐる品質問題は今も事態が収束する兆しが見えていない。
これまで日本が守ってきた医療の信頼性が揺らぐ危険性も孕んでいる。
日本では、特許切れした医薬品の多くが海外原薬メーカーに依存する厳しい事情がある。海外メーカーから原薬を調達し、国内での製剤化を経て、医療機関に医薬品が納入されるが、川上のサプライチェーンを常に監視することは難しい。
日医工が製造販売する抗菌薬「セファゾリン」は、原薬のダブルソース化に対応していたにも関わらず、原薬製造元ルートに異物混入が認められ、欠品を引き起こした。こうした製品が今後増加してしまう懸念がある。
後発品メーカーの努力に委ねるのも限界がある。後発品の使用割合は80%に迫り、この数年で飛躍的に伸びた。しかし、今後は市場縮小局面に入り、各社の経営はより一層厳しくなる見通しだ。薬価制度改革によって、長期収載品メーカーが市場からの撤退が可能になるG1、G2ルールが導入され、結果的に製造販売する企業は絞られることになり、安定供給リスクは高まる。
一つひとつの品目で疾患の重篤性や代替薬の有無などを点検し、様々なリスクから欠品を引き起こさないような手立てに加え、起こった場合にどう対応していくかを事前に準備しておくことが重要になるだろう。国内での原薬生産体制を含め、医療現場で必要な薬を有事でも確実に届ける仕組みを国全体で考えたい。