政府の公約である「骨太の方針2023」に「ドラッグラグ・ドラッグロスの問題に対応する」と盛り込まれた。その中で「小児用・希少疾病用等の未承認薬の解消に向けた薬事上の措置と承認審査体制の強化等を推進する」と明記されたことに注目した。
欧米で承認されているにも関わらず、国内で未承認の薬は年々増え、2020年段階で176品目、そのうち欧米でオーファン指定を受けているのは90品目に上る。さらに、50品目には日本の開発情報がない。開発されにくい小児薬も積年の課題だ。
政府が公約を果たすことはもちろんだが、医薬品の研究開発、販売をするのは製薬企業である。製薬業界の各社が背負う責任も大きい。
そこで製薬企業には、特に希少疾病薬の研究開発において、患者とその家族の声を取り込んで進めることを求めたい。希少疾病の診療経験は限られ、在宅療養の実態を知る機会は少ない。医学書や医師ら医療従事者の日常診療からは認識し得ない切実な課題、ニーズが患者と家族の声の中にある。
業界では、患者の声を研究開発に取り込む試みが出始めている。その中で、患者との創薬活動に向け活動を行う武田薬品、第一三共、参天製薬、協和キリンによる「ヘルスケアカフェ」で上がった声を例に挙げたい。今月の第4回は、希少難病などを伴う医療的ケア児をテーマに行われた。複数の患者家族の声に見えたのは、薬があるだけでは済まない現実だった。
「神経症状がひどいので薬の開発が進んでくれたらいいな」。1~2時間おきに痙攣を繰り返す子供を前にした親の言葉。その願いは切実だ。
「(子供は)散剤を11種類ほど飲んでおり、私が疲れていると間違えたりする。水で溶かすのだが、冬場は溶けにくく、固まってやり直したり、朝の出勤する前には結構辛い」。日常の服薬管理の負担の大きさがうかがえる。
ヘルスケアカフェでは社員が患者宅を訪問し、実態を知る活動も行っている。
講演した大阪大学大学院・成育小児科学の酒井規夫特任教授は、患者と家族のニーズの把握について「客観的に見るのが一つの視点だが、主観的なものとして捉える考え方も重要」と指摘し、PRO(患者報告アウトカム)のような試みも「大事」だとした。
患者家族は言う。「疾患関連の研究が行われているという事実は患者と家族の希望になる。治療薬があっても治療の選択肢は多い方が安心。何もされていないことは絶望的」。過去に取材した希少難病の患者家族も、同じ思いで製薬企業の扉を叩き続けた。
研究から上市まで10年前後の時間がかかることは珍しくないが、当該疾患治療の研究が行われていることが患者と家族の支えになり、未来への希望をつなぐ架け橋になる。患者と家族の声は、研究開発を豊かで実りのあるものにするはずだ。