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製造管理者要件改正、薬学に打撃

2024年06月14日 (金)

 次期医薬品医療機器等法改正に向け、製薬企業の製造所における薬剤師の製造管理者要件について、薬剤師以外にも門戸を広げる制度見直しの議論が進められている。薬剤師の独占業務となっていた企業内のポストを失うことになれば、薬剤師を輩出する大学薬学部、薬科大学にとっては大きな痛手だ。学生獲得競争が激化する中、薬学部が持つ優位性が喪失し、志願者減少に拍車をかける懸念もある。

 厚生科学審議会部会で業界団体からのヒアリングが行われ、日本製薬団体連合会は「製造所のガバナンス強化の一環として、製造管理者要件の見直しが重要」と訴えた。薬剤師に加え、医学、薬学、理学、工学、農学等から幅広く指名できるよう見直しを求めた。日本臨床検査薬協会も製造販売業、製造業、販売業の各責任者について薬剤師以外の要件を認めるよう要望した。

 業界からの意見は一定程度理解できる。化学合成・低分子を中心とした時代から抗体、ペプチド、核酸、遺伝子治療等の治療モダリティの多様化に伴い、製造・分析等の技術も多様化している。「薬剤師に限定せず、幅広い自然科学分野から最適な技術背景を持つ人材を製造管理者に当てるべき」との説明にはさほど違和感がない。

 医薬品の製造不正が相次ぎ報告されている問題についても、その要因の一つに製造管理者のガバナンス能力が指摘されている。薬剤師が職責を十分に果たしていないと認識されても仕方がない。

 薬剤師会や大学の有識者からの反論は、製造管理者の要件を薬剤師に限定する根拠としてはやや説得力を欠いた。今後、薬剤師会や薬学関係者が協力して製造現場における薬剤師の存在意義をアピールしなければ、薬剤師の大事な職能がまた一つ奪われることになる。

 志願者数減少に直面している各大学の薬学部も企業内で“薬剤師外し”が起こっている状況を深刻に捉えるべきだ。前回の改正では、薬剤師以外の技術者を総括製造販売責任者に置くことが可能な基準として、薬学または化学に関する専門課程を修了した者などを規定した。

 ただし、この場合は総責としての責務を果たせる薬剤師が確保できない場合などに限る例外規定だった。例外規定なく、製造管理者に非薬剤師の指名が可能になった場合には薬学生の進路が限定され、大学の学生確保にも影響する。

 厚労研究班の研究結果によると、医薬品製造販売業・製造業に従事する薬剤師数、就職する新卒薬剤師数が減少傾向で、薬局・医療機関に偏重しており、卒業時の出口が限定されている実態があった。

 一方、創薬研究、医薬品開発の職種も薬学部に以前ほどの存在感はなく、MRの薬剤師資格者は過去最低割合に低下した。薬学部には薬局・医療機関で働く薬剤師の育成だけではなく、企業で活躍する人材づくりも必要だ。



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