NECは今年、製薬企業などを対象に、医療データを活用した臨床開発やマーケティングなどの支援サービスを始める。特徴は、電子カルテデータを利活用する点。電子カルテデータからは、レセプトデータとは異なり、患者の診断、経過、治療結果が分かる。そのような臨床実態に即したデータは、製薬企業にとって利用価値が高い。同社は、強みである電子カルテ事業で培った知見、電子カルテベンダーを問わないデータ標準化クラウド基盤、NEC独自の生成AIによるデータ構造化などにより、質と価値の伴った医療データを利活用し、製薬企業の抱える課題の解決を目指す。
データ標準化クラウド基盤活用‐独自生成AIで構造化
NECは、レセプト、電子カルテなどの事業を50年以上にわたり展開している。同社の医事会計システムは1300施設、電子カルテシステムは1200施設に導入されている。この院内に蓄積されている医療データと取り扱いノウハウをサービスに生かす。
製薬企業向けの医療データサービスを始めるにあたり、同社のサービスの特徴として生かすのが電子カルテデータだ。
一般的に電子カルテデータはベンダーによって規格が異なり、データ収集・活用が難しい。その点、同社は、ベンダーを問わずデータ収集が可能なヘルスケアクラウド基盤「MegaOak Cloud Gateway」を構築している。このクラウド基盤では、データの標準化(HL7FHIR規格へのデータ変換)、データセキュリティを定めた3省2ガイドライン対応、匿名・仮名加工対応、データ構造化ができる。このクラウド基盤は約100施設に導入され、さらに拡大を図っている。
この事業基盤を生かし製薬企業向けに医療データ利活用サービスを始める。内容は2領域。▽メディカルアフェアーズ/マーケティング支援▽経営判断/臨床開発支援。前者は3月末までに、後者は来年度中の開始を目指す。
メディカルアフェアーズ/マーケティング支援

想定されるサービス内容を、ヘルスケア・ライフサイエンス事業部門戦略統括室上席プロフェッショナルの脇田宏之氏(写真左)は次のように説明する。
「処方医のプロファイル、受け持ち患者数、処方切り替えの分析、競合品の処方状況などの知りたい情報を、われわれのデータと分析、AIを活用して提供したい」
それらデータは、マーケティングプラン、MRを含む各プロモーションチャネルのリソース配分などに生かせる。
経営判断/臨床開発支援
想定されるサービス内容を、これら新規事業の責任者で同事業部門主席プロフェッショナルの福井誠氏(写真中央)は次のように説明する。
「特に臨床開発領域には課題が多い。例えば治験候補者の探索にはコストも時間もかかり苦労されている。レセプトデータだけではうまくいかないケースもある。そこをわれわれの独自生成AIにより診療記録や組み入れや除外基準などの非構造データを構造化して、候補者探索のスピードアップとコスト削減を図りたい。それにより、適切な施設選定につなげたい。経営層には、各種シミュレーション結果の提示による適切な経営判断に資するデータを提供したい」
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福井氏は、「製薬企業において最もコストと時間がかかっているのが臨床開発であり、ICTの力で課題を解決できる余地は大きい。臨床開発部門の支援を事業の柱に育てたい」と意気込む。
電子カルテデータは、基本的に記述からなる非構造データであり、その正確な構造化にAI技術が寄与している。
AIの医療事業への応用を研究する同社バイオメトリクス研究所ディレクターの久保雅洋氏(写真右)は、「特長の一つは医師によって異なる記述の特性や医療用語の解釈をきわめて正確にできる点。AIは省略や特性の多い記述を正確に解読し、利活用できる構造に変換できる。被験者探索などにもその技術が応用されている」と説明する。
電子カルテデータの質の面では、臨床データ収集システム(CDCS)の構築運用実績を活用して、必要な情報を医療現場と共に生成し、その質を上げていくことが可能である。
福井氏は、一連のサービス開始にあたり「製薬企業、医療機関、患者それぞれの課題に向き合い社会課題を解決できるサービスを提供していきたい」と抱負を語る。