【順天堂大/循環器理学療法学会】高齢心不全患者退院後予後のAIモデル開発‐「退院時の身体機能」が1年後の生命を左右

2026年02月16日 (月)

 順天堂大学理学療法学科、同大循環期内学講座と日本循環器理学療法学会との研究グループはこのほど、高齢心不全患者の退院1年後の生命予後を、退院時の客観的な身体機能データを用いて高精度に予測するAIモデルを開発した。約1万人の身体機能データを解析した結果、退院時の「身体機能」や「基本動作能力」が、心機能など従来の指標に匹敵する、あるいはそれ以上に強力な予後因子であることを発見した。この成果は、AIによるリスク予測に基づき、患者一人ひとりに最適なリハビリテーションを提供する「個別化医療」の実現が期待される。

 今回の研究では、日本循環器理学療法学会が主導した国内96の医療機関が参加する多施設共同前向き研究(J-Proof HF Registry)に登録された、心不全で入院しリハビリテーションを受けた65歳以上の患者9700人のデータを解析した。

 同研究グループは、年齢や性別、併存疾患、血液検査データといった従来の臨床情報に加え、理学療法士が退院時に標準的な手法で測定した「バーセルインデックス(BI)」「SPPB(Short Physical Performance Battery)」、歩行速度、握力といった客観的な身体機能データをAI(機械学習の一種であるXGBoost)に学習させた。

 モデルの性能を厳格に評価するため、「Leave-one-site-out交差検証」という手法を用いた。これは、96施設のうち1施設を完全に未知のテストデータとし、残りの95施設で学習したモデルで予測精度を検証する、というプロセスを96回繰り返す頑健な検証方法。

 その結果、開発されたAIモデルは、既存の臨床リスクスコア(AHEADスコア、BIOSTAT compactスコア)と比較して、統計学的有意に高い退院1年後死亡の予測精度(AUC0.76)を達成した。さらに、AIがどの情報を重視して予測しているかを分析すると、「退院時のBI」と「SPPB」が、心機能や血液検査データに匹敵する、あるいはそれ以上に強力な予測因子であることが明らかになった。これは、「退院時にどれだけ日常生活が自立し、しっかりと動けるか」が、その後の生命予後を左右する重要な鍵であることを科学的に示すものとなった。 

 今回の成果は、高齢心不全患者の退院後のケアを大きく変える可能性がある。開発されたAIモデルを用いることで、退院時に「1年後に命を落とすリスクが高い患者」を客観的かつ高精度に特定できる。これにより、画一的なフォローアップではなく、ハイリスクと予測された患者には集中的な心臓リハビリテーションや栄養指導、多職種による訪問ケアを手厚く提供するなど、個別化されたケア計画(Personalized Medicine)の立案が可能となる。

 これは、限りある医療・介護資源を、真に介入を必要とする患者へ効率的に配分することにもつながる。

 同研究グループは、この予測モデルを臨床現場の医師や理学療法士が日常的に使えるよう、プロトタイプのWebアプリケーションも開発している。今後は、このツールの臨床的有用性を検証する研究を進め、将来的には実臨床への導入を目指していく。


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