東京科学大学総合研究院フロンティア材料研究所の谷中冴子准教授は12日、自然科学研究機構生命創成探究センター(ExCELLS)の研究チームらと共同で、抗体医薬品に生じる化学的劣化の一つである「メチオニン酸化」について、その立体化学状態を原子レベルで識別・定量できる新たな解析手法を開発したと発表した。研究では、核磁気共鳴(NMR)分光法と液体クロマトグラフィー質量分析(LC?MS)、さらに立体選択的酵素反応を組み合わせることで、従来は区別が困難であった酸化状態の違いを可視化することに成功した。この成果は、抗体医薬品の品質評価や安定性解析の高度化に貢献することが期待される。
今回の研究では、IgG1抗体のFc領域に存在する二つのメチオニン残基に着目し、段階的に酸化した試料を用いて詳細な解析を行った。高感度NMR分光法により、酸化状態や立体化学の違いに応じてメチルシグナルが系統的に分裂・変化する様子を観測した。さらに、LC?MSによるペプチドマッピングと定量解析を組み合わせることで、各酸化状態の存在比を独立に検証した。
加えて、メチオニン酸化物のS体のみを選択的に還元する酵素(MsrA)を用いることで、NMRおよび質量分析に基づく立体化学帰属を機能的に検証した。これにより、解析結果が単一の手法に依存しない、信頼性の高いものであることを示した。
抗体医薬品は、がんや自己免疫疾患などの治療に広く用いられる重要なバイオ医薬品。その有効性や安全性は、製造・保存過程における化学的安定性に大きく依存する。中でもメチオニン残基の酸化は、抗体の構造や機能に影響を及ぼすことが知られているが、酸化によって生じる立体化学的な違い(S体とR体)や、それらが抗体内部でどのように影響し合うかについては、十分に理解されていない。
今回の成果は、抗体医薬品における酸化劣化を「起きた/起きていない」という二値的な視点ではなく、立体化学レベルで精密に評価する枠組みが提示したもの。このアプローチは、抗体医薬品の品質管理、製造プロセスの最適化、さらにはバイオ医薬品の同等性評価(comparability)などに応用できる可能性がある。
この手法は、抗体に限らず、他の蛋白質医薬品や酸化修飾にも適用可能で、今後、より複雑化・高度化するバイオ医薬品の評価において、NMRと質量分析を統合した精密解析が重要な役割を果たすと期待される。
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