18歳人口の減少に伴い、わが国の私立大学や短期大学の経営は厳しい状況を迎えつつある。1996年度に173万人であった18歳人口は、2006年には133万人にまで減少した。日本私立学校振興・共済事業団の調査によると、本年度入試で定員割れに陥った4年制私立大学は、初めて4割台を突破し、40・4%に上ったという。入学志願者数は、92年度をピークに激減しており、志願倍率の低下と定員割れの増加が顕著になっている。
文部科学大臣の諮問機関である中央教育審議会では、来年度の大学・短大への進学希望者は69万9000人まで減少し、全大学の合格者数と同数になると試算している。いわゆる「大学全入時代」に突入するわけだ。もはや、大学が学生を選抜するのではなく、学生が大学を選択する時代がきたと言っても過言ではない。
今後は厳しい競争に勝ち残れず、経営破綻に陥る大学の増加が懸念される。政府の基本方針である大学設置認可の規制緩和が、過当競争に一層の拍車をかけることになろう。文科省が昨年5月、経営破綻した大学の学生を、近隣大学が受け入れるように要請することを盛り込んだ「経営困難な学校法人への対応方針」を公表したのは記憶に新しい。
私立薬科大学といえども大学経営難の時代を、対岸の火事として安閑と見ている状況にはない。薬学6年制がスタートした今年度の私立薬科大学・薬学部志願者は、前年度に比べ平均で4割近くも減少している。伝統ある薬科大学の場合は、多くが20030%程度の減少にとどまったものの、新設校は特に落ち込みが激しい。女性を中心に2年間の年限延長を嫌った学生が、他学部へ進路変更する傾向が顕著に現れている。
薬科大学・薬学部は今年度で67校、定員で1万2454人に上り、来年度には70校に達しようとしている。だが、今年度の入試状況を基に、「新しく薬学部設置を予定している大学も、考え直す可能性があるのではないか」との見方も出ている。
従来のように「医科大学に比べ薬科大学の設立は、安上がりにできる」「薬学部設置が、大学全体の偏差値アップにつながる」「汚れ仕事ではなく、女性に人気がある」「国家資格が取れるため、学生が集まりやすい」といった安易な理由から、闇雲に薬科大学が新設される時代は、もはや終焉を迎えたと言ってよい。
その一方で、既設の薬科大学も生き残りをかけて、学生の確保に最大限取り組んでいる。志願者数の減少は、受験料などの収入減につながる。さらに在籍者数が減れば、入学金や授業料等の納付金総額が減少し、経営を大きく圧迫する。
特に、“利益率の高い”文系のドル箱学部を持たない単科大学は、医学部、薬学部とも、財政基盤の確立が急務となっている。文系学部は、ほぼ教職員の人件費だけで成り立つが、医学部、薬学部は実習費などに多大な経費がかかるため、収支バランスを保つのが難しいと聞く。
このような状況の中で、有名私立大学とその近隣にある医科大学、薬科大学が、水面下で合併あるいはホールディングスの設立について、検討を重ねているという噂は珍しくない。有名私立大学には、総合大学としてスケールアップできるメリットがあり、医科大学と薬科大学には財政基盤の強化と共に、教養学科の充実を訴求する学生募集戦略が背景にあるようだ。
今後は大学も、再編成の波が避けられないと予測されている。薬科大学には、時代背景や環境に素早く対応できる私立大学の特徴を最大限に生かし、6年制にふさわしい特色ある教育体系、カリキュラムづくりを期待したい。