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公的医療費の財源論議を

2006年10月18日 (水)

 国家財政で、政策として一旦支出が決まった事業は、なかなか削減できないというのはよく聞く話だ。しかし、歳入面でも同じことが言えるらしい。つまり、戦争など国家の危機的事態が生じた場合、その費用を賄うために、税やその他の方策により一度集められた財源は、危機的状況が解消しても別の国家施策に転用され、なかなか白紙に戻すことは難しいということらしい。財政学的にはよく知られた理論だという。

 恥ずかしい話だが、実はこれを知ったのは、先に開かれた医療経済フォーラム・ジャパンの公開シンポジウムだった。早稲田大学教授で、政府の「社会保障のあり方に関する懇談会」委員を務めた宮島洋氏の講演で聞いた話である。ただし、この転用は新たな国家の基本的な施策となるため、悪いとは言えない面もあるようだ。

 宮島氏によると、政府の支出や公的負担規模は、国家的危機を契機とした急増と下方硬直性があり、不連続的に拡大していくという。

 例えば欧州では、第一次大戦や第二次大戦の戦費調達、戦後のインフレ対策のために、新財源として日本の消費税に似た一般売り上げ税や、源泉徴収制度のようなシステムが導入された。その後も、そうした税収調達システムが引き継がれ、戦後の福祉国家建設にその財源が投入された。「Warfare State」から「Welfare State」へと転換を図るための財源となったわけだ。これは“転移効果”と呼ばれる。

 一方、日本はどうだったのか。第二次大戦中、どのような戦費調達施策が実施されたか、詳しいことは知らないが、戦後は旧来の国家体制が崩壊、新たに自由民主主義国家として、米国その他の援助を受け国家を再生、高度経済成長、オイルショック、バブル景気とその崩壊等々、経済状況はいろいろ変化した。

 そうして気が付けば、国家の税収46兆円に対し、歳出額は約80兆円、つまり3分の1は赤字財政の予算となった。さらに累積する国債残高が、2006年度で542兆円という大借金国となったのは周知の通りだ。地方債の赤字分など、考えたくもない。

 宮島氏の講演内容に戻ると、同氏はわが国の社会保障費規模について「高齢化の割合としては小さく、今後、これで日本の社会保障が維持できるのか」と疑問を表明している。

 なぜ、社会保障費の規模が小さいのか。それは、高度成長期であった70年代までに付加価値税が導入されず、さらに80年代以降の経済停滞期に、社会保障財源を下支えする仕組みを作ってこなかったからだという。そうした失政のツケが、いまの赤字財政に影を落としている部分は少なくないだろう。

 そこで期待されているのは、急速に進む少子高齢社会が“転移効果”を生むこと。今後20年で75歳以上の後期高齢者は、2000万人に達するといわれている。実に日本人の5人に1人は、75歳以上の老人になる計算だ。

 これが医療・介護の政策に及ぼす影響は計り知れない。費用面だけではない。後期高齢者の家族を含めた社会環境も問われることになる。何よりも、公的医療のあり方について、継続的かつ早急な議論が必要である。




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