若者の理科離れが指摘されてから久しいが、依然としてその傾向が続いている。この現象は、何も日本だけではなく、欧米諸国をはじめとする先進国共通の問題となっている。各国とも国民の科学技術知識が低下傾向にあるといわれ、特に若者の理科や数学への関心が希薄化しているのが現状だ。
理科離れの要因として、まず、「理科や数学は分かりにくく、つまらない」という若者の先入観が指摘されている。語学などとは異なり、「知らなくても生活に支障がない」「理論を知らなくても電化製品などは使える」などの考えが、その根底にあるようだ。
また、「文系は、理系よりも大学のカリキュラムが楽で、しかも就職後の待遇面でも文系の方が有利である」という社会通念も、若者の理科離れに、より一層の拍車をかけているようだ。
だが、資源の少ない日本は、科学技術立国を目指す以外、この問題を解決しなければ、厳しい国際競争に勝ち抜く術がないのは改めていうまでもない。
若者の理科離れを阻止するための産官学の取り組みは必要不可欠となっており、国民一人ひとりに「科学する心」を育ませるためのバックグラウンド作りが急がれる。
その具体索の一つとして、「科学者を教育現場に立たせよ」と提言する声も少なくない。実際、CSRの一環として、製薬企業をはじめとするいくつかの企業が、現役の研究者を小学校に派遣して、理科実験の面白さを直接児童に伝える「出前実験」を実施している。
これら科学者の授業を受けた児童や、その父母の評判も上々で、出前実験の試みは、「科学者や技術者が社会に向かって科学の面白さを発信する」重要性を証明しているといえるだろう。
このような状況の中、日本薬学会では、28日から岡山市で開催する第130年会の中で、「高校生シンポジウム」(高校生による研究発表会)を企画している。
年会初の試みとなる同シンポジウムは、高校生の理科離れ対策の一環として、薬学の面白さをPRすることを目的としたものだ。薬学会参加の研究者と共に研究の魅力を共有し、高校生に薬学に興味を持ってもらうことを最大の狙いとしているが、優秀な高校生を薬学に誘うための企画でもある。
シンポジウムでは、中国・四国地方の14高校からの発表(口演)が予定され、高校生が半年余りにわたって薬学に関連する研究課題について取り組んだ成果を披露する。
研究テーマは、▽世界初の人工医薬品アセチル酸を完成させるまでの努力と苦労▽薬をのむときの最適条件の探索▽身近な生物に対する市販薬の影響▽生ごみでバイオ燃料は作れないか――などで、無機化学、物理化学、動物学に至るまで多岐にわたっており、広い意味で薬学に関連したものだ。
当日は、これら発表を聞いて、プロの研究者が助言やコメントを発表するため、研究者を目指す高校生にとっては大きな励みになるだろう。
また、シンポジウムに参加する高校の半数以上が、スーパーサイエンスハイスクール以外の高校のため、今回の試みによって「普通の高校でも研究活動が活発に行われている」という明るい事実も判明している。
シンポジウムを通じて、より多くの若者が薬学の道を志すことを期待したい。